第8話 オタクの鍋物
2018年も過ぎ、新年たる2019年になってから既に幾週間経った。
大晦日も正月もいつもどおりの日々を過ごしたが仕事そのものも
またいつもどおり変わらなかった。
そんな寒々とした日々の元、ボクら夫婦は外にいた。
「楽しみにしてた映画観れてよかったねー」
ボクの隣でヨメがいつも以上に笑顔を見せながら声を掛ける。
今日の映画は彼女がとても楽しみにしていた作品でボクも少なからず興味を
持っていたこともあってかヨメにグイグイ引っ張られる。
仕事もひと段落付いたこともあって気分転換とネタ集めの為に
平日の朝からショッピングモール内の映画館まで遠出してきたのだった。
映画を見終えモール内のレストランで昼食を取り終わった後、
散策も兼ねてモール内を歩いているとヨメがふと声を掛けてくる。
「ねえ、晩御飯の具材も買っていかない?今日は鍋にしてさ」
「鍋か…今日は結構冷えるしそれもいいね」
ヨメの提案にボクも賛同し、モール内で食材を買うことに決めて足を向けた。
ショッピングモール内の食品販売コーナーで食材を買うボクらは
どんな鍋にしようか散策しながら話し合っていた。
「今日はどういう鍋がいい?」
「ん~定番なのは寄せ鍋よね~だけど寄せ鍋でも肉の種類や魚でも色々あるし」
「だね、他にもキムチ鍋やしゃぶしゃぶ鍋とかもいいかな?」
あれやこれやとお互いに意見を出していき、結局は豚肉メインの寄せ鍋へと決めたのであった。
出汁は醤油ベースのものとして必要な素材を色々集めていく。
するとふとヨメがある言葉を声に出す。
「そういえば鍋の〆をは何にするの?」
「そうだね…うどんかラーメンのどっちかにする?」
鍋の〆の食材は中々に難しい選択だと思う。
「実家の鍋はどんな感じだったんだい?」
嫁はそうね~、と少し顔を上に上げながら思い出していた。
「ウチは〆というよりも一緒に入ってるってパターンね。それで残りは明日の朝ごはんで食べたりとか」
「あ、そっちもなんだ。ボクの方もラーメンとか最初から入ってるから〆のイメージって気分がわかなくて」
そんな会話をしながら必要な具材を買い揃えたボクらは帰路に付くのであった。
家に付くとボクとヨメはテキパキと鍋の調理に掛かった。
ボクが食材を食べやすく切り分け、ヨメが鍋の味付けを担当する。
鍋の出汁は帰り道の中で醤油ベースに決まり、スムーズに具材を投入にしていった。
それからひと煮立ちした鍋を居間の炬燵まで運び、白米と取り皿などを運んで用意は完了。
「それじゃ開けるよ~」
そう言いながらボクは鍋の蓋を開ける。
暖かい湯気を周囲を覆い、それが晴れるとぐつぐつと良い煮立った音を立てながら暖かい鍋の中身がその姿を現した。
「これだよね~♪」
表情から見てもわかるように声もまたうれしさを滲み出していたヨメ。
よく見るとちょっと涎が出てたのでボクはちょっと苦笑しながらも取り皿に鍋の具材を入れて渡すのであった。
「ほらほら涎が垂れてるよ。さあ、第1号はキミだよハイ」
「ありがと~さ~て何を掛けようかな~」
ウキウキで用意していたタレを選びながら嬉しい感情を声に漏らすヨメを余所にボクはポン酢を掛けた鍋の具材を一口頬張る。
しみ込んだ出汁とタレとのハーモニーとコンビネーションがクロスオーバーを引き起こしていく。
「うん、美味しい」
「ホント~♪ゴマもいいわよ~♪」
選び抜いたゴマダレに具を付けて食べるヨメの笑みはとても蕩けてていつもじゃ観たことない笑顔になっていた。
そんなヨメの喜んでる姿もおかずにボクは箸を進めるのであった。
談笑しつつ鍋を楽しんでいたのも束の間、鍋の具材も段々少なっていた。
「それじゃあそろそろ投入するかい?」
ボクはそう言いながら二つの麺類を出す。
そう饂飩とラーメンだ。
「うーん、どっちも捨て難いわよね~」
「…じゃあ、一緒にいれる?」
ヨメの言葉にボクはニヤリと笑みを浮かべる。
「なん…だと…!?」
ボクの邪悪笑みを観たヨメは驚愕の表情を浮かべる。
予想通りの反応を示したヨメにボクは満足気だ。
「鍋はやっぱ色んな具材を楽しめなきゃ駄目だよね」
「だね~さあ早く入れよう!!」
満面の笑みを浮かべながらせっつくヨメにボクはラーメンと饂飩を投入し、しばらくして煮立った麺を頂くのであった。
「やっぱ冬は鍋だよね~」
舌鼓を打ちつつ、冬の晩ご飯は楽しく終わるのであった。
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