「人の振り見て我が振り直せ」という言葉がありますが、自分のダメなところはなかなか気づきにくく、他人の悪いところを見てもなかなかそれを自分にあてはめて考えることは難しいものです。
ましてや人の良いところを目の当たりにして、自身を顧みて向上に役立てるなんてのは聖人の所業だと思います。せいぜいが人のいいところを見るとついつい嫌なところをあら探ししてしまっている自分に気づき、自己嫌悪するくらいでしょうか……そんな嫌な奴は自分くらいかもしれませんが……。
前置きはさておいて、このお話は一言でいうと「夢の中で竜になって可愛い女の子(勇者)と旅をする」お話です。ぱっと聞くと異世界転生っぽいですが、僕が面白いと思ったのが旅が進むと同時に現実の時も進んでいくことです。というよりは夢は夢なので当然のように現実が進んでいきます。
そして現実において主人公を取り巻く環境はなかなか一筋縄ではいかないので、あらゆる問題が山積しています。主には主人公が抱える病に関することですが、付随して人間関係のあれこれも付きまといます。心配する家族だったり、微妙な関係性の友人だったり……。
現実は嫌なものというのはもはや相場で決まっているものですので、そんな中夢で勇者(可愛い)に召喚されて、しかも自分が火竜(とても強い)になったとあっては主人公も楽しくなってしまうのも大いに頷けます。
この勇者:ティナが天真爛漫といった感じで可愛い(念押し)のですが、どこか人を寄せ付けない雰囲気があります。
主人公は火竜なので言葉を話せないのですが、だからといって意思が伝えられないわけでなく、この辺の表現の上手さは是非本編を読んでほしいです。
ありていに言って尊い!となります。なりました。
相互の不理解による断絶とは言語的な不一致ではなく、歩み寄る姿勢の欠如によって起こり得るという話はよく聴きますが、逆を言えばそれがあることによって言葉を用いなくても……ということはあり得るのではないかとこの話において強く思い出しました。
夢の世界において主人公は火竜なので、ティナとは姿形は全く異なります。
そして一見すると溌剌としたティナと主人公はパーソナリティも異なっているように見えます。
しかし僕は内面においては主人公とティナは似たもの同士ではないかと思いました。この辺の関係の妙も是非本編を読んでじっくり味わってほしいです。
中盤、主人公がティナの最大の問題としていたことはその実主人公においても最も課題となることであったのではないかという、この、よさみ(伝われ)!
他人の振り見て我が振りを直すのはやっぱり難しいよなと思いました。その難しさをどう超えていくかという点においても実に丁寧に描かれているので、そこも是非読んで確かめてください。
素晴らしい作品をありがとうございました!