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「ボーリングなんてしたくない。」店のドアから一番最後に出てきた美菜は言った。


日中は日差しが強くて暑いのに、夜になると風が冷たいと感じる4月末。

今日は、男4・女4でいわゆる出会い目的の飲み会をするために集まった。


一次会は、食べ歩きが趣味という男側の幹事に任せた創作料理の居酒屋。

料理も美味しい。お酒も美味しい。

それなりに盛り上がり、女側の幹事だったわたしはほっとした。


「なんか体動かしたくなっちゃったね!」誰が言い出し、近くにボーリング場があることがわかると二次会をそこにしようと盛り上がった。


学生時代、運動部に所属していた人が多かったからかもしれない。


みんな、そうしよー!と最後の一杯はアルコールをやめてウーロン茶にした。

「どんだけ本気だよ!」と笑いあう。


会計を済ませ、みんなで外に出る。

店のドアを出ると風が頬にあたりヒヤッとした。


「歩いていけるかなー。」「タクシーひろう?」と店の前で男側の幹事と「歩けるね!」と歩き始めようとした時、


「ほんとにボーリング行くの?」美菜が店のドアを閉めながら不機嫌そうに口を尖らせる。

「今から行こうとしてるけど、、他が良かった?」

「爪が、、」美菜が自分の右手に視線を落とした。

真っ白く長い美菜の指。整えられた爪にはピンクのラメがキラキラと光っている。


「美菜さんの爪きれいですもんね!でも、最近は爪カバーを用意してる所も多いみたいですよ!」

「でも、あるかわからないでしょ。」

わたしと美菜より2歳下の香織が口を開けてはっとした顔になる。


空気を読んだ男の一人が近くにあるお酒もあるカフェがあるから、、と提案してくれその店に向かうことになった。


「チャイあるかなー。好きなんだよね。」美菜は提案してくれた男に向かって長い睫毛をパチパチさせながら笑う。


わたしはその後を歩きながら美菜の揺れる長い髪を何となく見ている。


『行きたくないならもっと早めに言えばいいのに。』

みんなが盛り上がる中、言いにくかったのかもしれない。

嫌なものを無理やりするのも楽しくないだろうから仕方ない。


美菜以外の人なら、きっとそう思えただろう。

でも、

美菜にはイライラしてしまう。


それは、飲みたいお酒が飲み放題メニューにない事に「えー、なんでー。」としつこくていたからだろうか。


店員が呼んでもなかなか来なかった時、「ここ、口コミサイトであんまり評価良くなかったもんね。」と幹事の前でため息をついたからだろうか。


「チャイあったかなぁ、、あるといいね。」美菜を見下ろす感じで男が頬笑む。


大学時代から美菜は男に大事にされる。好き嫌いをハッキリと言い素直だからだろうか。


わたしが同じ事をしたらワガママと言われるんじゃないの、、?美菜だから?美菜が美人でスタイルが、良いから?


「・・・だよね。」

「・・・え?」

視線を感じて左に振り向く。

幹事をしてくれた中林くんが、わたしの横を歩いている事にその時気づいた。


「ごめん、ボーっとしてた。何?」

飲み過ぎ?と中林くんは笑って美菜の方に視線を向ける。


「美菜ちゃんて髪サラサラだよねー。」

あー、、、またか、とわたしは気づかれないくらいの小さくため息をつく。


はいはい、その後は美菜ちゃんてほんとに彼氏いないの?あんなに美人なのに?でしょ。


このやりとり、大学時代から何度もあった。


美菜に直接聞けない男たちが、いつも一緒にいたわたしを間に入れて探ってくる。


『協力なんてしないからね、、もう30の大人なんだから、、、』


視線を履いていた靴に落とす。

最近、お気に入りのエナメルのレースアップシューズ。

ヒールは2.5㎝。歩きやすくて何にでも合う。

目線を前にやる。

ヒールは7、、8㎝はあるかな。ピンクベージュの踵にだけレースをあしらったハイヒール。


美菜の白く細い足首を強調するためにあるような靴だなぁ、、


あんな高いヒール履いたことないなぁ、、


中林くんも、ああいうフレアスカートにヒールが似合う女が好きなのかな、


美菜が好きなのかな、、


「鈴本さんの髪は柔らかさそうだよね。」

「、、え?」

「エレベーターで後ろになると触ってみたくなるんだよね。」


、、え?


同じ会社の同期。部署が違うので毎日会うわけではない。

たまたま出勤が重なったり、他の階に用事がある時のエレベーターの中で一緒になったり、、


「あれ、この発言って変態ぽい!?」何も言わないわたしを見て中林くんが慌てた様子を見せる。


「鈴本さんって付き合ってる人いるの?ほら、今日ってさ鈴本さんの友達に良い出会いないかなー、って話だったでしょ。」

少し早口になった中林くんが、えーっと、だからとわたしの目を見た。


「今度、ボーリング行かない?二人で。」

「、、二次会に行けなかったから?」

中林くんは頷きながら、「だって、すっごくボーリングしたかったでしょ。」


「みんなで盛り上がってる時、昔めっちゃ行ってたー!!ってすごい嬉しそうだったから。」

「わたし、そんなに嬉しそうだった?」

「うん。」中林くんが両手を上げてサッカー選手がゴールを決めた後のような歓喜の表情をする。


そんなことしてない、笑って中林くんの両手を下ろすように言う。


「鈴本さんさ、いつも周りの意見に合わせてくれる感じだから、感情出てるの珍しいなと思ってさ。」


「いつ行く?」中林くんが仕事帰りでも休みの昼でもいいなぁーと携帯のカレンダーを開く。


中林くんと二人で、、。

ボーリング、、。


胸の遠くでドキドキする、、いやモヤモヤ、、。

期待してる、何に、、?ただ、はしゃいでるわたしに同期として、

いや、だったらみんなで行こうって言うかな、、


「えー虫嫌いだからバーベキューなんてしたくない!」

「最近は、街中でもできる所あるよ。ヒールでも大丈夫だし。」

美菜の声で、はっと前を向く。

いつのまにかカフェの前まで来ていて、美菜がカフェの扉を開けてもらいながら

「だったら行ってもいいかなー。」とまた長い睫毛をパチパチさせる。


『嫌なことも欲しいことも言えないなんて、自分ができないからってわたしに嫉妬してるの?』

 美菜の睫毛がそう言っている気がした。


『遠慮して、、自分の意見を言って拒否されるのが怖いだけでしょ、誰でもわかりにくい女なんかめんどくさいだけじゃない。』


美菜といると、真っ黒のようなモヤがかかったようなぐるぐるした感情になるのに、、


なんで、いつも一緒にいたのか、、、


それは、わたしにはない美菜の思ったことがそのまま口から出ることに、


顔から出ることに、


それに憧れていたのかもしれない。



「鈴本さん、入らないの?」

中林くんが扉を手で押さえて待っていてくれている。


「行きたいランチがあるの。」

中林くんを見る。初めて真っ直ぐ見た気がする。

「ボーリングの時に一緒に行きたい。」


中林くんが「じゃあ」と、

「休みの昼集合だな。」と笑う。


あ、、。

笑うと目が細くなる。

目の横にシワが入る。

そこに触れてみたいと思った。


カフェの中に入る。

美菜が赤いソファーに座って足を組んでいた。


チャイがあったのだろうか、艶々の唇がうれしそうに笑っている。


『ほんとだ、、わかりやすくて可愛いわ。』

わたしは後ろ手で扉を静かに閉めた。


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