第3話

とりあえずひとりになりたくて、適当な理由をつけて風呂に行かせることにしました。

餌木さん、お顔がどろどろになっちゃいましたね、折角いっつもかっこいいのになぁ…

餌木に話しかける時、自分からは信じられないくらいわざとらしく抑揚のある声が出るようでした。お風呂行ってきてくださいねと誘導したけれど、変に高ぶったみたいな声で、「シャールくんともっと、一緒にいたいです」とか言い出したので、またイライラして、普通に、先程のように襟首掴んで浴室に引っ張っていきました。もう餌木は嫌とも言わないし、抵抗もしません。半分自分で自分を引きずって、引っ張られる方向に準じました。ため息つきながら左手で脱衣場の壁に餌木の首を押し付け、右手で白衣のボタンを乱暴に外していきます。適当に脱がせていると、何故か目を合わせなくてもわかるくらい高揚したみたいな顔に変わっていって、脱がしているシャールの手を見ながら、はーっ、はーっと息を荒くしました。うんざりしました。ボタンだけ外して後は自分で脱ぐよう言いましたが、はあはあ言ってるくせに恥ずかしがってなかなか脱がないので、半ば無理矢理脱がして浴室に押し込み、自分は服のままで浴室に入り、シャワーを手にとりました。餌木は何故か服を脱がしている時点で、いや、殴っている時点で?ペニスを少し立ち上げていました。何の期待でそんなになったのかはわかりませんし、わかりたくもありません。餌木に、床におすわりしようねーと促して、シャワーコックに手をかけて、膝を抱えて座った餌木に頭から冷水をかけました。萎えるかな、と思ったからです。しゃがんで、のぞきこんで、今度は顔面に冷水をかけました。流石に寒くてペニスは萎えたようでしたが餌木は逃げない上に、楽しいとか、嬉しいみたいな、変な雰囲気すらまとい続けて細い体で震えていて、ゾッとしました。水を止めてその顔を見ると、何かを勘違いしているのか、やはり、笑っているのです。シャワーコックで、顎をあげて、目線を合わせてみました。寒いからとは別にゾクゾクしてるみたいな、やらしい顔をしています。

餌木さんしあわせそう。僕といれて、嬉しいのかな?

餌木は、返事をすることも、頷くことも、首を横に振ることもしません。気味が悪かったのでそのまま無視することにしたのに、シャールくんっ、と上ずった声で呼ぶ声がしました。異様に不快でした。恐らく呼んでいるのではないのです。独りよがりに名前を口に出しているだけです。餌木のびちょびちょの髪を引っ掴みながら立ち上がって持ち上げて、しゃがませて、膝に手を置かせて、脚を開かせペニスが見えるような形をとらせました。餌木が恥ずかしさと不安さを露わに目を合わせます。その姿勢にさせたまま、湯を出してペニスにあて、その姿を見下ろします。

ひっ、ぅ、ン、んぅ……

シャワーがあたる自分のペニスを見ながら、餌木は変な声を出して、切ない顔をしています。段々おったってきたペニスを見ていると、そもそもこういうの目的だったり想像したこと、あったりするんだろうな、と思えて、眉間に皺が寄りました。

なんでもしますって…はなから慰みものにされたかったんなら、そう言うべきですよね。この期に及んで、お前に自分守ろうとする権利、ねえだろ。

餌木はそんな姿勢のまま、違う、そんなつもりじゃない、ほんとに…何か言おうとしていました。言い訳がましさに嫌気がさして、乳首をぐい、と摘みました。仰け反って悲鳴をあげ、結局ペニスをひくひく持ち上げる姿を見て、男にしては大きすぎる乳首を見て、呆れたみたいな気持ちになりました。

あなたの意思を聞いてるんじゃないんですよ。慰みものにされたかったですって言えっつってんですよ。

もう一度シャワーを冷水にして、頭からかけました。

慰みものにされたかったって言えよ。

餌木は文句は言わないけれど、震えながらいちいち、目で何かを訴えようとします。黙って見下ろしていると、合わせていた目が伏せられました。

「慰みものに、されたかったです…」

歯の根が合わない口でそう言う餌木が、これでまた泣いたら、今度はもしかしたらシャワーヘッドで殴りつけていたかもしれません。なんだかどう足掻いても不愉快で、救いがなさすぎて、なんか愉快なことがねえとちょっとやってらんねえな、と思いました。

餌木さん、ほら、ここでトイレしてください。おしっこしーしー。

餌木は、何故かまた、シャールくん、と言いました。シャールは答えません。返事をする気もありません。

早くしてください。はやく。僕あなたのこと本当に嫌いなんで、面白くなかったら全くあなたといる価値がないんですよね。やれっつったら、やれよ。

餌木は、シャールを見つめたまま、少し間を置いて、…うぅ、ううう、と声を出して、寒くて小さくなった、そもそもそんなに大きくないペニスから、じょろじょろ放尿しました。尿は無色透明で、量が多く、それが自分にかからないように気をつけながら、ペニスとか、すがるみたいに目をそらさない餌木の顔とかを、見ていました。尿らしい匂いがしたので、湯を床に流しました。尿を出し終わって姿勢を変えようとする餌木の顔面にその湯をあて、飲め、動くんじゃねえよ。そう言いました。妙にイラついた声だなあと、自分で、思いました。控えめにしか動かない喉仏を見て、髪を引っ掴んでシャワーをもっときちんとあてて、

もっとガブガブ飲めるでしょう、

そう言ってずっと、しゃがんだままの彼を見ていました。口いっぱいにためた湯を腹に何度もゴクゴク流し込む喉を観察して、僕、何やってんだろう、そう思いました。バカバカしくなって、髪を持ってた手を離して、またため息ついて、

体洗って服着てから来てね。

それだけ言って、シャワーを持たせて、風呂場から出ました。ベッドのある部屋に戻って、というかベッドに戻って、もう一度寝るつもりでいましたが、下手したらこの部屋に入られてたのって今日だけじゃないのかもしれないな、と考えてしまって、そう簡単に眠れそうにもなくなりました。気持ち悪くなって部屋に変わった痕跡がないか確かめてみようかとも思いましたが、餌木本人が既にここにいるので、無駄に思えました。目を離した今ですら風呂場で何かやってないとも限りません。結局寝れるはずもなく、思い出せば思い出すほど何から何まで勝手で腹立つクソ、と思う、それだけでした。寝れずにベッドに座って本を読んでいたら、着替えた餌木が出てきて、

「シャールくん、またおトイレしたい…」

と言いました。それが、もう一回分の尿意がある、という意味なのか、またいつか今日のように放尿するところを見られたい、という意味なのか図りかねて、頭が痛くなりました。本をベッドにぽいして洗面所にそのまま餌木を引っ張っていって、鏡に対面させ、後ろからズボンのチャックを下ろして、自分がトイレするときするみたいに勝手にペニスを取り出して、ペニスを引っ張り上げ無理矢理背伸びさせ、シャールの手で先端を洗面台に向けました。餌木はなんで?と言いたそうな顔をしていますが、なんでもクソもありません。

ほら、餌木さん、しーしー。どうぞ。

さすがになかなかすぐには出ませんでしたが、おそらく見られているからであって、最初がちょろ、と出てしまえば、すぐにじょろじょろと尿が出始めました。鏡から目を逸らしながらおしっこしていましたが、一瞬、鏡越しに目があって、その時、みないでと言いかけて、やめたみたいなそぶりをしました。別にストーカー行為に及ぶ変態だからといって、その相手の目の前で放尿することに抵抗がないわけではないらしいのが、鏡に映る顔から察せられました。鏡に写る餌木は思っていたより小さく、背の高い女よりも小柄に見えます。恥ずかしさか惨めさかでいよいよ泣いてしまった餌木を殴りつける気までは、起きませんでした。湯を一気に飲ませたせいなのか、一度あれだけ勢いよく放尿していたとは思えないくらいの量が洗面台に流れていくのを、不思議な心持ちで眺めました。いつも完全に身なりが整っていて、この家の女の子達にもキャーキャー慕われて、高圧的な部分すら感じさせるオーラのあるこの男が、洗面台で後ろからひとまわりも年下の男にペニスを支えられておしっこ垂れて、泣いている。異様な光景でした。いい加減、シャールの提案は提案ではなく全て命令で、自分に発言権はないと理解したのか、今回は無駄に名前を呼んだり、変に見つめてきて渋ったりはしませんでしたが、その順応の早さがかえって神経を逆なでしました。

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