第8話

ラバランの舌は肌に絡みついたまま、首筋まで降りて、ラバランの手で肩からローブが滑り落ちるのがわかるのに、露わになった鎖骨に、唇が触れるのを感じるのに、まるでこの行為を余さず受容することを望んでいるかのように、次の刺激を待つかのように、体が動きません。ペニスは異常なほどに急速に血を集めてどくどくと鼓動して、自分が自分でないように浅ましくなっていくようで、このままではいけないとわかっているのに、もっとダメになるかもしれないのに、抵抗しない。ちがう、抵抗できない、きっとこの男が、自分に何か、ずるい施しをしただけであって本当の自分はこんなに浅ましくはない、そう言い聞かせる余裕もなく、鎖骨の下を這う舌先を、意識の細い線で追いかけてしまいます。時間をかけて降りていく柔らかな熱い一点を追いかけて、追いかけて、少し尖ってかたくなった舌先が胸の先端のほんの真横をすり抜けたとき、睾丸と肛門の間の筋肉のようなところと一緒に、ペニスの根元がひくっ、と痙攣して、驚くほど切なく、焦れた、湿ったため息のような小さな声が漏れました。自分の声とは思えなくて、これは、あまりにおかしい、このままじゃまずい、あともどりできなくなると確信しました。なのに、わずかに乳首に届きそうなところをじっとりと舌が滑る度に、あと少しで、あと少しで触れられそうなそこが、びりびりするわけがないそこが、このむっちりしたやわらかな舌に包まれてこねられるのを想像してしまいます。もう自分が自分で制御できないことにも気を配る余裕はなく、経験も記憶もない架空の刺激が欲しくて、意識が、舌ではなく乳首にしかいきません。そのとき、延々と焦れったく舌を這わせていた口が大きく開いた気配がして、言葉にならない期待にびくりと体が震えます。胸の先端をすっぽりと含むように覆う唇を感じて、疼いた胸を突き出すように背中が無意識に反り返りました。なのに、先程まで肌に押し付けられていた、柔らかくとろけた熱い舌は引っ込んでしまっていて、得られると思った刺激は一向に与えられません。焦れて痺れる乳首を擦り付けたがるように、突き出した胸部をゆらゆらとさせても、唇は乳首の周りを囲むだけで、そこを撫でるのは口腔をうずまく温かい吐息だけです。そのあまりの切なさに自分の口から、抵抗や拒絶ではない甘えるような声が漏れているのに気付きました。決定的な刺激なんてひとつもないのに出てしまうその声は、無意識に自覚を避けていた恥ずかしい自分自身の姿を嫌でも意識させました。口をだらしなく半開きにして、拘束から逃れようとするためではなく舌を追いかけて体を仰け反らせ、胸を突き出し浮つかせて、勃起したペニスを期待の度にヒクつかせる、はしたない姿を、ラバランに無防備に晒している。それを自覚して一瞬で頭の中がぐちゃぐちゃになりました。ぐずぐずと精神が崩れて、声が抑えられなくなりました。ちがう、ちがう、それしか言えなくなりました。見ないで、ちがう、こんなの、ちがう、自分じゃない、ちがうのに、胸を擦り付けるような動きがやめられません。こんなことはやめなくてはいけないのに、こんなことしちゃだめなのに、どうしてももっとほしくて、気を抜くと精神がいやらしいことを跳ね除けられなくなりそうです。背中の隙間にラバランの両手が滑り込んで、反った体を包み込み、ほしいところの周りに触れていた唇がより深く吸い付いて、引っ張るようにちゅぽっ、という音をさせて、離れました。「今から先っぽ、くにゅくにゅしてあげるからね」ただの言葉とは思えないほど、それに頭がぐるぐるして、言葉の直後、先っぽ、ほしいところのちょっと下に押し付けられた舌の生々しい感触以外、何も意識できなくなりました。それが押し付けられたままゆっくりと先っぽに近づくのを、ピンピンにはった神経で追いかけます。くる、先っぽくにゅくにゅされる、それしか考えられなくなって、う、とか、んんとか、くぐもった声と一緒に、抱きとめられている体をぴくぴくと跳ねさせました。いよいよ、溶けそうに柔らかく、弾力がある熱い舌がゆっくりと乳首を押しつぶして、体重を支えるはずの体の芯がびく、びく、と自分の体じゃないみたいに跳ねて、湧き上がるような、絞り出すようなしっとりとした声と熱い息が喉を通りました。乳首の小さな段差の側面を舌先でなぶられて、下腹部のペニスを支えているところがしくしく、きゅんきゅんと小さく痙攣して、ペニスに痛いほどに血を集めます。こんなに切ないのは初めてで、熱くて、なんとかしてほしい、ペニスを触ってほしい、とあまりに素直に強く望んでしまっていました。するといつもの自分をあまりに簡単に溶かしていく甘い波が恐ろしくなって、だめになってしまう、これ以上は、だめ、背筋をどうにか丸め込んで我慢しなくちゃいけないと思いました。けれど、抱きとめられた体では、散々焦らされこじ開けられてしまった意識では、今更背を強張らせて刺激を押し遣ることなんて到底できません。胸の突起の段差に柔らかなものが引っかかる振動だけで、お腹の奥のしあわせなところがじんじんして、体の中心から作りかえられていくみたいになります。知らなかった頃には戻れなくなるくらいの初めての刺激が与えられているのに、充分過ぎるほどにもうこの体はおかしいのに、ひくひくと震えるペニスは、このわがままな体は、まだ、どこまでも切なく焦れていきます。息をまともに保つこともできずに、意識の外でちがう、ちがう、と繰り返す自分の声が聞こえます。浅ましく、貪欲に次から次へと快感をねだる自分が、自分から千切れたがっています。ほしい、ほしい、もっとください、と言いたがっている自分が、自制を超えて声を上げそうになります。初めてなのに、たいして触れられてもないのに、こんなにいやらしく体をヒクつかせる自分が怖い。乳首をくちくちと撫でる舌先は徹底的に優しいままで、あまりに甘ったるくて、胸だけでは、胸だけでは足りません。けれど次を求めたらまた次を求めて、その先でも次を求めて、本当の淫乱になってしまう気がしました。自分の浅ましさが信じられなくて、底なしに思えて、怖くて、自分が一番怖くて、信じられなくて、もう何も理解したくありませんでした。何も感じたくないのに、乳首を唇で挟むようにされて、舌でいちばん先端の部分をしゅりしゅりとさすられて、うっとりとした声がひりだされます。まるで喜んでいるかのようです。まるで恥のない好色のようです。ペニスを触ってほしい、それしか考えられなくなったみたいに、勝手に腰が浮つきます。その浮ついた腰をなだめるように太ももの付け根に掌が降りてきて、そのさらさらとしていながら少ししっとりとした革手袋の感触が太ももを撫でると、ペニスが、意思とは関係なく期待で震えます。ここまできたなら、ここまでしたなら、お願いだから早く、早くこれに触れてほしい、触れてほしい、それしか考えられません。はやく。

「…すごいね。君もこれ、目に焼き付けなきゃ勿体ないですよ」

これと言うのが何のことか、考えたくありません。ラバランがウスルの目に触れて、まぶたを拘束していた糸がふわふわと解けました。短い息を吐き出して、見たくないものの方を見ないように、目を背けようとしましたが、ラバランがまたしゃがみこんで太ももに手をかけるので、目で思わず追いかけてしまって、それは視界に入りました。痛い程に反り返ったペニスが白いローブの布を持ち上げて、はしたなく触ってほしそうに、ヒクついています。それにほど近いところに顔を近付けたラバランが、ローブを両手でそっと除けて、その途端にペニスはまた、大きくぴくりと震えました。ラバランはうっとりと微笑んで、ウスルの顔と、ぴくぴくするペニスをゆっくり、交互に見据えます。

「ピンク色のツルツルした綺麗な先っぽのくぼみにも、はずかしいおちんちんを隠してる皮との間にも、ウスルくんのこぼしたとろとろのお汁が、いっぱい溜まってるね」

「おちんちんがヒクヒクする度に、おしっこの穴がくぱくぱするの、わかりますか?」

とてもゆっくりそう言うので、身体中にぞくぞくとした熱いものが走って、それは目線の先に集中しました。あまりにいやらしい気持ちになってラバランの言葉に脳みそが焼かれるみたいな錯覚がして、何も話せやしないのに、短く断続的な息と一緒に、小さな声が、出てしまいました。こんなにはずかしいことを言葉にされて、自分の体の一部だなんて思いたくないくらいに大きくなった性器の全部、熱が伝わるほどに近くで見つめられて、こんなに近くにいるのに、一度も触ってくれないのです。ラバランが、触れそうなところに顔を近づけて、小さく舌を出しました。ぬらぬら光る、先ほどまで乳首をくにくにといじめていた、ぷにぷにのべろ。それは真っ青で、その色に気付いた瞬間、ぞくぞくと心が震えました。ピンク色のつるつるの先っぽとその舌は、もうすぐで、もうすぐで触れそうです。もうすぐで触れそうなところで、鮮やかと表現できるほどに真っ青な舌が先を尖らせるのを見て、意思とは関係なくあ、あ、と切ない声を漏らしてしまいました。見たことのない魚のような、宝石のような、不思議な気持ちにさせる、青い舌。あっ、あ、何で、なんで……声を我慢することもしない自分の痴態を鑑みることもできなくて、腰を突き出して、涙を流して、あと少しのところで届かない舌を追いかけます。ラバランが上唇を舐めて、露わになった舌の裏の血管の凹凸のぬるぬるに釘付けになります。それに、もう少しで届きそうなのに。あまりに辛くて、自分が何をしているか、もう、わかりません。切なくて死にそうで、ペニスをその舌にくっつけたくて、必死に腰を浮かすことしかできません。

「ウスルくん。」

それの間近で自分の名前を呼ぶ口の動きに目を奪われて、含みのある、困ったような表情が目に焼き付きました。

「私だってはやく、透明なお汁の止まらないおしっこの穴に吸い付いて、かわいい皮に隠れたカリ首の溝に舌を巻きつけて、裏側のすじに舌の腹を這わせて、お口のやわらかいところでおちんちん全部包んで、いっぱいじゅぽじゅぽしてあげたいよ」

言葉にされる度に頭の中に明滅が起こって、頭が勝手に、言葉のとおりに想像してしまって、唇はすぐそこ、あと少しでペニスにキスしてもらえそうなところにあって、くらくらして、ほしい、ほしくて、ほしくて、頭がダメになっていきます。

「けれど、ウスルくんが自分のお口で、ラバランさんにおちんちんなめてほしいですっておねだりしてくれないと、私は、何もしてあげられないんです」

それはとてもひどい条件でした。そんなの、言えるわけありません、言えるわけないのに、あまりにも、欲しくて、焦れて、頭がぼーっとして、彼の青い舌にばかり目がいって、口が、ラバランさん、と、自然に彼を呼んでしまっていました。ラバランさん、ラバランさん、そんなこと、言えません、そう言いたかったけれど、言えませんと言ったら、この状態で全てを無しにして、自分を放置する権限がこの人にはある、それも、わかってしまって、でも言えなくて、本当に、懇願するみたいな声で、ラバランさん、それしか言えなくなってしまいました。

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