第5話 琴の金策

「ママ、ご相談がありまして」

翌日、琴は控え目に切り出した。一日かけて散々考えた金策、いや奇策披露なのだ。

「え?何?どうしたの?」

「あのさ、私、再来年受験でしょ。みんなさ、大体6校位受けるんだって」

「へえ、急にどうしたの?もしや宝塚リベンジ計画の発表?」

「違うよ、これをね、私は2校に絞る!」

「ふーん。別にいいけど、それじゃ両方落ちたら悲惨だよ。琴は落ちるの得意でしょ」

「好きで落ちてるんじゃないわよ。それに高校は全合格だったでしょ。そう言う事じゃなくて、えっと、4校分減った訳だから、その分の受験料を払わなくて済むわけじゃない。それが1校三万円として合計十二万円。これだけ得する訳よ」

「はあ、得するとは思わないけど、まあ負担しなくてよいと言うことだわね」

ママは不審感ありありだった。これは速攻しかない。

「だからね、その十二万円先に頂戴?」

「はあ?なにそれ。危うく納得するとこだったわよ。お金が要るわけ?琴、何しでかしたの?」

駄目だ、ママは変化球打ちが得意だった。

「琴、ちょっと、ちゃんと話なさい。学校で何か壊したの?」

ああ、やっぱ駄目だ。しゃあない。琴は白状した。


「へえー。琴がロードバイクねー。悪くないわねえ。爺様が乗ってるしね。あんたスポーツやってないからどんどこ太ってっちゃうしねー」 

あーこれは女同士で禁句じゃないか。琴は思ったが白馬の王子様のためにぐっと堪えた。

「それが十二万円って訳ね。じゃあさ、向こう三年間のお誕生日とクリスマスプレゼントと引き換えってのはどう?」

うわっ、クリスマスを人質にしてきたか。女同士の戦いは厳しい。しかし、王子様が待ってる。琴は頑張るよ。

「わかった。でもさ、他にもほら、危険防止のためのヘルメットとか、目を守るサングラスとかもいるんだって。可愛い娘を守るための必要経費って事で、こんなのをひっくるめて三年間のお誕生日とクリスマスってのでどう?」

「はいはい、爺様が喜ぶからまあいいか」

やった!勝った! ママはパパっ子だったんだー。

「でも爺様には内緒だよ。いきなり乗り付けるんだ」

「えー!あそこまで走ってくつもり?」

「うんまあ、何とかなるって、ゆりが言ってた」

「そうなの? まあ爺様も結構遠くまで行ってたけどね。琵琶湖一周したり」

へえ、琵琶湖一周。いいかも。王子様と駈ける傍らに煌めく湖水。コト、そろそろ休憩しようか、美味しいジェラートがあるんだ。囁く王子様。きゃーなんか素敵。

「何一人で赤くなってるの?」

「え?いやいやいや 何でもない」

琴は更に赤くなった。

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