第2話 エイドステーション
そしてやってきたゴールデンウィーク。市役所に集合した琴たちは車で各エイドステーションへ送ってもらった。琴が配置されたのは、丁度山際の開けた場所の公園。幼稚園の時遠足で来たことある場所だった。
「そろそろだよー、お願いねー」
市役所職員のお姉さんから手ほどき受けて、少し緊張して待ってると、街で時々見かけるヘルメットにサングラスと少し派手なユニフォームを着た人たちが自転車で次々やって来た。なんだってわざわざこんな格好で自転車乗るんだかと不思議に思っていた人種だ。しかも自転車は琴が乗っているママチャリとは随分違って、ハンドルがぐわーっと曲がっている。
ああ、これ爺様んちにあるやつだ。琴の爺様は歳の割に元気で、こんな自転車で走り回ってるってママが言ってた。爺様んちに行くのは年に2回ほどだから、琴はそんな風景見たことないけど、部屋に置いてあったのは見ている。家の中に自転車があるーって最初はびっくりしたのだ。
やって来るのはオジサンやお兄さんばかりではなく女性も多かった。一見、年齢は判らないけどヘルメット脱いでサングラス外すと判る。その中に一人、結構近い歳の子がいた。肩までの髪に目が大きいキュートな子だった。
「お疲れさまでーす。お菓子と飲み物でーす。地元で獲れた果物使ってまーす」
「ありがとー、あーくたびれ」
「あのー 高校生ですか」
「そだよ、一年だけど」
「えー、おんなじ学年だ!どこの高校?」
「春高」
「えー?一緒だ」
琴の通う春水(はるみ)高校は、県内ではそこそこの進学校だけど、制服が可愛いので人気がある。琴はそれだけで頑張ったのだ。
「こんなのに乗って怖くないの?」
「そりゃ初めは怖かったよ。時々転んで結構な擦り傷作るしねー。でもすんごい気持ちいいよ、風になったみたいだよ」
風になったみたい そう言った彼女の瞳は本当に美しく輝いた。
風…か。なんて素敵なプリンセス。琴は一瞬魂を抜かれたみたいになった。
「へえ、そうなんだ。私のおじいちゃんも乗ってるんだけど、あんまりその話、しないしなー。でもよく見るときれいだね」
彼女の自転車はエメラルドグリーンに淡いピンクと白のラインが入った可愛いカラーリングだった。
*ビアンキ VIA NIRONE7 DAMA BIANCA(color:CELESTE)
アルミフレーム コンポ:105 ウェイト:9.3kg
「そうでしょ、気に入ってるんだ。あたしもお爺ちゃんに買ってもらった。イタリアンバイクだよ」
「ひゃあ、外車なんだ」
「んじゃ、そろそろ行くわ。あたし、羽田ゆりってんだ。4組だよ」
「うん、私は麻影琴。1組。今度の放課後、遊びに行っていい?」
「あはは、タカラジェンヌみたいな名前だね。いーよ、部活入ってないから待ってるよ。じゃあね」
「うん、じゃあね、気を付けてね」
羽田ゆりは本当に風のように疾走していった。ポツンと残された琴はなんだかとても羨ましくなった。
ふーん、何かちょっとかっこいい。あれに乗って爺様の所にいきなり行ったら、びっくりするだろうな。琴の胸の中に小さなびっくり箱がほっこり浮かんでいた。
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