コトの風

@suzugranpa

第1話 時給 九百円

「琴、今月はウチが当番だからさ、広報誌配ってきてくれない?」


 うららかな日曜の朝、ママから仕事がやって来た。


「広報誌って、市のやつ?」

「うんそう、全部のポストに入れてくれたらいいだけだよ」

「はーい」


 新米女子高生の琴は、広報誌の束を抱えてマンションの共同玄関まで階段を降りて行った。ポストに順番に入れてゆくと一部余った。あれ?ウチのは取り置きしてるから、これは予備かな。琴は余った一部をチラチラめくりながら階段を上がりかけた。


「ん?」


 最後のページの市のお知らせの二行記事『学生アルバイト募集!』が目に入ったのだ。市のアルバイトってあるんだ。


『サイクリングツアーのエイドステーションスタッフ急募! 高校生一名 ゴールデンウィーク期間 時給九百円』


とある。時給九百円!朝から夕方までなら五千円以上になる。入学以来ボケーッとしていた琴の心を揺さぶる二行だった。


「ねえ、ママ。エイドステーションって何?」

「エイドステーション? 救急看護所じゃないの? どこにあるの?」

「広報に載ってるの。そこでのバイトが時給九百円だって。サイクリングツアーって書いてある」

「ふうーん。自転車でこけた人の手当てでもするのかな。」


 ママも記事を覗き込んだ。


「高校生って事は、大した仕事じゃなさそうだけど、市役所に聞いてみたら?」

 

 琴は翌日昼休み、こっそり持ってきているスマホで市役所に電話してみた。


「ああ、広報に出したやつですね。自転車で市内を回るツアーをやるんですけど、途中の休憩所で飲み物とか渡してもらう係なんですよ」


 要は、自転車ツアーの途中休憩所のテントの下で参加者に地元スイーツと飲み物を配るだけ。だけど雑用もあるし、屋外だから日焼けを嫌う女子高生が多くて一名足りないんだとか。なんだ、全然大丈夫じゃん。


「あの、それ応募していいですか?」


 琴は即決した。どうせゴールデンウィークも暇だ。詳しい事は書類送るから見てとの事だった。

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