第35話

 経営コンサルタント。簡単に説明すると、会社や企業の経営がうまくいくようにサポートする仕事だ。会社の様子を第3者目線でとらえるため、社員とは別枠で雇うことが多い(らしい)。


 しかし、カオリさんは珍しいタイプのようで、メイド兼コンサルタントと2役を背負っているそうだ。本人曰く、昔から働いていて信頼が厚かったことや、きっぱりとした性格、真面目なところが評価されたらしい。



 カオリさんが経営コンサルタントだということは、松田家の長女の凛さえも知らなかったみたいで、ポカーンとしている。ただ、驚いているとかではなく、全く想像もしていなかった新事実がでてきたから、どう反応すればいいか困っているみたいだった。


 俺だってどう反応すればいいか困る。



「えっと……それで…?」


 何とも言えない沈黙を破ったのは俺だった。


「経営コンサルタントというのは会社の現状、方針を知らないと務まりません。ですから私は、この事件に関して社長…博隆様がどのような考えを持っているのか、そしてどうするつもりなのか、教えていただきました」


 カオリさんは事務報告のように淡々と話を進めていく。


「まてまて! そもそも会社ってなんだ? 博隆が社長!?」


「あんた、そんなことも知らないの!?」

「はぁ、まさかそこからだったとは……」


 呆れた顔で凛とカオリさんが見てくる。そんな常識みたいに言われても……。


「松田不動産という会社を知りませんか? 数年前、結構世を騒がせた会社のはずですが……」


「松田不動産……松田……。あ! もしかして、数年前にあまりに急に成長して、政府との関係を疑われた、あの松田不動産!?」


「その松田不動産よ。5年前、私のパパが始めた会社なの。安い土地を買い占めて、私の力…『異常に運がいい』という力を使って、それらの地価を爆上げさせたの」


「……」


 おいおい、そんなのありかよ……


「ま、そんな不可解なことをしたから、不正を疑われて一躍有名になってしまったってわけよ」


「なるほど。それは分かったが、なぜ博隆が社長なんだ? 凛のお父さんが社長じゃないのか?」


「……。パパは3年前に死んだわ。癌を患っていたの」

 一気に空気が冷たくなるのを感じた。


「そうか…。なんか、悪い……」


「…別にいいわ…。もう3年も前の話だもの。パパは次の社長に博隆を指名したの。当時博隆はまだ中学生だったけど、十分に賢く、そして経営の才能があったから、誰も文句が言えなかったわ。それにこの会社の秘密を知っているのは松田家だけにしたかったし」


 なるほど。確かに秘密を知らないと会社を運営していくのは難しいかもしれない。


「これで分かったかしら?」


「だいたいわかった……と思う。つまり松田家は、凛の力を使って不動産業を営んでいて、博隆が社長、カオリさんが経営コンサルタント。そして凛の秘密を知っているのは凛、博隆、俺、小百合さん、由衣、そしてカオリさんというわけか。」

「はい。そういうことになりますね」


 今まで黙って聞いていたカオリさんが満足そうに頷く。


「そろそろ本題に戻ってもよろしいでしょうか?」


「あ、そうだったわ。それで、博隆はこの事件をどうしようとしているのかしら?」




「博隆様は、智樹様を殺そうとしています」

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