第36話

「殺そうとしている!?」」

「はい」


 想像をはるかに超える物騒な言葉が出てきて、聞き間違えかと思った。むしろ聞き間違えであってほしかったのだが、どうやら間違っていなかったらしい。


「それにしても、そんな簡単に殺せるものなのか?」

「もちろん大っぴらに殺すわけではないでしょう。世の中には事故屋というものがあります」

「事故屋?」

「まるで事故で死んだかのように殺すプロの事です」


 そうなのか。世の中って怖いな。


「で、なんで智樹が殺されなくちゃならないのよ?」

 凛が不思議そうに尋ねる。


「それが一番手っ取り早くて、確実だからです」

「手っ取り早くて、確実……。そのいい方だとまるで解決策を知っているかのようだな」



「はい。私たちはこの事件の解決策を知っています」



「え?」


「もっといえば、この事件がなぜ起こったのかも説明することもできます」

「じゃあ、早くそれを教えなさいよ!」


 凛が騒ぎ立てる。凛が怒るのも無理がないだろう。俺たちにとって今一番知りたいのは、この状況の打開策だ。情報は1つでも多く知りたいに決まっている。


 カオリさんは凛をチラッと見たが、よくあることなのか驚きもせず、無表情のままである。


「もちろん構いませんが、あちらの御二方も一緒の方がいいのではないですか?こちらの話が気になって、料理の支度も進んでいないようですし」


 カオリさんの指さす方向を見ると、由衣と小百合先輩が仲間に入れてほしそうにこちらを見ていた。そりゃ気になるだろうな。


 俺は彼女らに手招きする。由衣はワクワクしている感じ、小百合先輩は嬉しそうに駆け寄ってきた。それぞれ俺の隣に座る。


「じゃあ、説明お願いしてもいいですか。カオリさん」

「わかりました。ですが、その前にこちらからもお願いがあるのですが」

「お願い……ですか?」


「はい。今からお話しようと思っている話は、博隆様が独自に導いたものです。ですから、本来、私が彼のもとで務めている以上、この話は口外できません。口外した瞬間私は彼を裏切ったということになります。つまり、説明をすると私の居場所はなくなるのです」


「なるほど、それはつまり……」

 なんか嫌な予感がする……


「はい。お察しの通り、私にしばらくの間衣食住を提供してほしいのです」

 やっぱりかーーー!


 凛を泊めているというだけっでも精いっぱいなのに、カオリさんも泊めるとなると……


「もちろん。家事は手伝わせていただきます」

 そういう問題じゃないんだよなぁ。何というか、妹と2人暮らしの年頃の男の家に女性が増えるということが問題なんだよなぁ。


 だが、このお願いはお願いに見えて実はお願いではなかったりする。俺たちには説明を聞いて、情報を得るという手段しか残っていないのだ。断りたくとも断れない状況である。


「由衣、何とかなりそうか?」

「私はもちろん大丈夫だけど、お兄ちゃんはいいの?」


 どうやら妹にも心配されているようだ。ここは兄らしく堂々と振舞うか。


「も、もちろん大丈夫に決まっているだろう!」

「不安だな~」


「では、承諾してくれるということでいいのですね?」

 カオリさんはいつも冷静である。


「はい。では、説明してもらえないでしょうか。博隆の考えを」


「わかりました。……どこから話しましょうか……」

 カオリさんは俺たちの顔を見ながら少し考える。




「ところで、あなたたちの力がなぜあるか知っていますか?」

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