第31話

「あなたの秘密を言いふらすわよ!」


「……。私には別に秘密などありませんが…?」


「白を切っても無駄よ!私はあなたが働いているのを近くで見てきたんだから、あなたのことは結構知っているつもりなんだから!」


「……」


 俺にはどうしようもないから、凛の頼もしい発言に期待してみることにした。だけど、カオリさんはメンタルが強そうだからなぁ。大丈夫かなぁ。


「まずは、そうね……。あなたが隠れて小説を書いていることから触れるとしようかしら」


「な、なぜ、それを……? まぁ、その程度のことはバレても何の問題ありませんが」


「そうね……書いているだけなら何も問題ないわ。だけど、書いている内容はどうかしら? 例えば、あなたの処女作が『男をゲットしちゃうぞ♡ がんばれ! カオリン!』とか……。私は何を書くのも本人の自由だと思っているけど、まさか自分をモデルにしてR18指定ギリギリの作品を書いているのを知ったときは、さすがに引いたわよ」


「ば、ばかな……。それは2年も前に消したはずだというのに…。なぜ、それをあなたが知っているのですか?」


「私、あなたが小説を書き始めたときから、ずっと追ってるから♡」


 なんか、想像以上に話の内容がすごい……。それにしても、あのピリピリして冷静な感じのカオリさんが、そんな小説を書いていたなんて! スピーカー越しだから顔は見えないが、さぞかしカオリさんは顔を赤らめて恥ずかしがっているだろう。


 だが、さすがのカオリさん。その程度ではあまり動じない。


「ま、まぁ、あの時は私も未熟でした。どうすればいいのか分からずに手当たり次第に書いたものですから、いくらバカにされようと気にいたしませんよ?」


 つまり、カオリさんはまだ未熟の時に書いた作品だから、あんな作品ができても仕方がないと言ってるようだ。だけど、それって、つまり……


「あら、じゃあ、あなたはどうすればいいかわからない状況の中で無意識にあの内容を書いたってこと? 普段からそんなこと考えていたなんて以外~。私はてっきり若い読者層を得ようとした苦肉の策だと思っていたのに」


 凛はここぞとばかりに指摘する。まぁ、多少こじつけがましい所もあるかもしれないが、混乱しているカオリさんには効果があったようだ。


「ななな、な、なぜそのようなことを知っているのか分かりませんが、わ、わ、私にこんな辱めを受けさせても、この門は開けるつもりはありましぇんよ!!」


 かなり動揺しているのか、あまりろれつが回っていないが、やはりそう簡単には入れてくれないらしい。


「そう……。これで行けると確信していたのに。私の考えは少し甘かったようね。なら……奥の手を使うしかないのかしら?」


「……奥の手…ですか…?」


「ええ。本当は言うつもりはなかったのですが、あなたがあまりににも頑固なもんだから、使うほかないの」


 凛は自信たっぷりにそう言う。この作戦に奥の手なんかあったのか……


「……………」


 スピーカー越しにはカオリさんがいるはずだが、息をのむように黙り続けている。急に周りが重たい雰囲気に変わる。


「あなた、実は智樹の……」


そこまで言いかけた瞬間、スピーカー越しからまるで人が変わったかのようなカオリさんの叫び声が聞こえてきた。


「わかったわ!! 門を開けるから! それ以上口にしないで!!」


 宣言通り門は開き、スピーカーの通信は切れてしまった。どうやら作戦はうまくいったらしい。だが、なぜカオリさんは俺の名前を口にした瞬間慌てだしたのだろうか。


 そもそもカオリさんは凛の事を忘れているのだから、凛を訪れたときにしか接点がない俺も彼女の記憶から消えているはずだ。


 どういうことだ……。俺はひどく混乱していた。


「驚いたわね……。まさか成功するなんて…」


 凛は大きく開いた門を見据えながら立ち尽くしていた。


「凛。これはどういうことだ?」


 俺はしびれを切らして凛に話しかける。


「さあ、私も分からないわ」


「つまり、奥の手など存在していないのに、なぜか空いてしまったのか?」


「ええ。適当にそれっぽい雰囲気であなたの名前を口にしただけなのに……」


「俺の事を知っているということか…?そんなはずがない。俺は過去に1回、あの時にしかカオリさんと会っていないぞ」


「思わぬ収穫ができたわね」


「収穫? それってつまり、カオリさんは……」


「ええ。あの女は私たちの事を忘れていない。そして必死に何かを隠そうとしている」


 そして凛は確信したのか自信満々にとんでもないことを言い放った。




「彼女がこの事件の『秘密』を握っているようね」

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