第24話

 朝起きると凛はパソコンの前で寝ていた。


 パソコンには書きかけの文章がある。


 きっと夜遅くまで没頭していたんだろう。


 凛にあげた昨日の夜ご飯はそのまま置いてある。


 俺だっておなかすいていたのに、我慢して凛にあげたというのに何で食わないんだよ。


 俺はすっかり冷めてしまったエビフライと白ご飯を1階に持っていき、ついでに時間を確認する。


 リビングの時計によると、7時30分を少し過ぎたあたりだった。


 どうやら、少し寝坊したようだ。今から家を出て間に合うか、間に合わないか、きわどい時間帯である。


 由衣は朝練があったのか、すでに家を出ているみたいだ。


 俺はしばらく、腕組みをしながら少し考える。


「よし、今日は休むか」


 結局、ずる休みをすることをわずか3秒で決めてしまった。


 今日は凛のそばにいて、今後の方針について話し合った方がいいだろうと思ったのだ。別にめんどうだったからではない。


 俺は早速、軽い足取りでキッチンに行くと、凛と俺の分の朝食を作り始める。


 とはいえ、料理があまり得意ではない俺は、ベーコンエッグくらいしか作れない。


 まぁ、パンとベーコンエッグで十分だろう。


 なんだかんだ15分後、ベーコンエッグぽい何かが出来上がった。


 少しいつも見ている奴と違うが、ベーコンと卵を焼いたし、ベーコンエッグと言っても大丈夫だろう。


 俺は皿に乗せ、凛がいる分の部屋に持っていく。


 持ってきたパンとベーコンエッグ(のつもり)はとりあえずベットの上に置いといて、未だにパソコンの前で寝ている凛を揺さぶり起こす。


 凛は眠そうに、少し目を開けボーと空中を眺める。


 見たことのない彼女の顔に俺は戸惑っていると、彼女は状況を理解できないのか、キョロキョロとあたりを見渡し始める。


 何だか、小動物みたいでかわいい。


 やっと昨日の事を思い出したのか、俺の方を向く。


「変なことしてないでしょうね?」


「していません」


 俺は、きっぱりと否定しておく。


 事実、俺は何もしていない。


 昨日はしばらく、凛によってたたかれる俺のパソコンを眺めていると、段々と眠くなり、そのまま寝てしまったのだ。


 凛は怪しむように俺の目をじっと見据える。


 俺も負けじと凛の目を見つめ続ける。


 ここで目を逸らしたら、嘘をついているみたいだろう? 


 あと、凛が可愛い。


 ふと俺のおなかが朝食をせかす様に、グーと鳴る。


 すると彼女のおなかもそれに呼応するようにグーと鳴った。


 凛は恥ずかしくなったのか、頬を赤め目を逸らす。


「さっき、朝食作ってきたんだけど、食べる?」


「……食べる…」


 彼女は恥ずかしそうにそっぽを向きながら頷く。


 俺はベットの上に置いてあったパンとベーコンエッグ(のつもり)を凛に手渡し、そこにピンクの花柄箸を添えてあげた。


「何これ……?」


「妹の箸だけど? あ、大丈夫。あとで洗って返しとけばバレないから」


「いや、箸じゃなくて……。この…何か……スクランブルエッグ? みたいなやつ。中にベーコンっぽいの入ってるんだけど」


「え、ベーコンエッグだよ?」


 どうやら凛にはスクランブルエッグにベーコンが入っている謎の食べ物に見えたらしい。


「えぇー……。まぁ、いっか」


 そう言って彼女は勢いよく食べ始める。


 とてもお嬢様とは思われない品のない食べ方だ。


 凛がおいしそうに食べているのを確認してから、俺も食べてみる。


 なんというか複雑な味がした。


「ところでさ、これからどうするんだ?」


 今後の事は早めに決めておいた方がいいだろう。


「そうね……。あんまり考えていないけど、やっぱり元の生活に戻りたいわね。このままだと不便だし、あと、ここにずっといるわけには行かないから早く解決したいわね」


「まぁ、そうだよな。俺としてはずっと部屋にいてもらってもいいのだが、さすがに妹に怪しまれそうだしな」


 俺は由衣の事を思い出す。彼女は鋭いから、いつバレるかまるで分らない。


「そうね。私としても無関係なあなたに迷惑かけるわけには行かないし、さっさと住める場所を探すとするわ」


「……大丈夫か?」


「私を誰だと思ってるの!『素晴らしき幸運の持ち主』・松田凛よ! なるようになるに決まっているじゃない!」


 そう強がっている彼女を見て俺はふと思い出す。


 そういえば彼女は幸運の持ち主で俺は悪運の持ち主だということを。


 そして彼女の弟博隆が言っていたように、俺と凛が関わることによって凛の家に悪運が降りかかっていたこと。


 今回の事がもしそれの延長戦だとしたら……。


 少なからず俺は無関係ではなくなる!


「うーん……何か手掛かり解かないかしら? 今のままじゃ、さすがに何もできないわ。ねぇ、智樹、何か心当たりない? どんなに小さなことでもいいんだけど」


「え、え、え、え、え……。と、と、と、特にないかなー」


 内心すごく焦っている。心当たりがありすぎてヤバいからだ。


「どうしたの? そんなに焦って」


「べ、べ、別に、な、な、なんでもありませんよ?」


「…………」

「…………」


「ねえ、智樹。何か隠しているでしょ?」


「そんなこと……ないです……」


「いいから言いなさい! 言わないと、智樹が私にやった、あんなことやこんなことを小説で暴露するわよ!」


 すごい喧騒で、俺を追い込んでくる凛。


 めちゃくちゃ怖いけど、やっていること脅迫だよね?答えるしかなくなるやん……。


「わ、わかった! 話すから、その話だけは書かないでくれ!」


「……ヤバいことした自覚はあるのね……」



 それから約10分ほど、凛の弟・博隆から聞いた話を凛に話した。彼女は驚きながらも、最後までしっかり聞いてくれた。



「なるほどね。つまり、あなたのせいでこういう事態になったかもしれないと。そういうことでしょ?」


「……はい…」


「なら、決まりね!」



「え、何が?」



 彼女は嬉しそうにはにかんでいる。



「この事件が解決するまで、私はあなたの家に居候させてもらうわ!」



「え、で、でも、妹もいますし……」



「そんなこと、知っちゃこっちゃないわよ! あんたが悪いんだから、そこらへんは責任もって話を付けなさいね!」



 

 えぇ……どうしよう……。

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