第25話

 俺は腕を組みながら、うーんと唸る。


 凛をこの家に居候させるのは俺としては大歓迎なんだが、妹と一緒に暮らしている以上、妹にバレて面倒なことになるのは確定事項だともいえる。


 本当の事を話せばいいのかもしれないが、客観的に考えれば、俺が頭がおかしくなったとしか思われないだろう。


 数時間、俺はいろいろと考え、凛はといえばずっと小説を書いていた。よくそんなに小説を書き続けれるなと感心してしまう。


 少しは俺と一緒に考えてくれてもいいのに……。


 気が付いたら、時計の針は4時を指していた。


 まずい……!早くしない妹が帰ってきてしまう。危機感を感じた俺は、仕方なく苦肉の策に出ることにした。


 いつもはあまり使うことのない、スマホの連絡先から木下佳穂を選ぶ。


「佳穂、今ちょっといいか?」


『…いいけど…? …何? 智君からなんて……珍しいね…』


「あぁ、緊急事態なんだ。少し力を貸してほしい」


『…いいよ……。私にできる事なら……』


「実はだな…」


 俺は凛の身に降りかかった現象を簡単に説明する。


『……ふーん……』


「え、それだけ?」


『…智君の…言っていることだし……本当だと思う…』


 さすがは幼馴染。すんなりと信じてくれる。


『…それで…私に……どうしてほしいの…?』


「えーとだな…。凛を俺の家に居候させる口実を考えてほしいんだけど…」


『……。そういうことなら……まかせて…!』


 普段は物静かな彼女だが、意外とこういう相談には喜んで乗ってくれる。


 だけど大抵の場合、ろくな解決策を出さず、どこか強引である。その様子は第6話でも見られるから、暇なら確認してほしい。


 考えているのか、電話からは物音1つ聞こえない。



 数分後



『よし!……これしかない…!』


「お、何かいい案を思いついたか!?」


『その……凛という女の子を…拾ってきたことにする…!』


「…は?」


『名付けて…「拾ってきた猫作戦」…!』


「なんか、だいたい想像はつくが、一応詳しく聞かせてくれ」


 そして彼女は、静かに、しかし誇らしげに自分の案を語る。


 要約するとこうだ。


 俺が適当にぶらぶらと外を歩いていると、公園で1人で泣いている少女を発見した。彼女から話をきくと、自分は親から捨てられ、行く場所がないという。さすがに放っておくことができない俺は、自分の家に連れ帰り、世話をすることを決めた。


「…本当にうまくいくと思っているのか?」


 さすがに冗談だろう。俺はそう考えて佳穂に確認してみる。


『……成功するに…決まっている…』


「お前、マジか……」


『だって…こういう話は…大抵成功する…』


「その話って、猫の場合だろ!今は人間の話をしているんだけど!」


『…大丈夫…。人間も猫も……どっちも動物…』


 そういう問題ではない気がするが…


『じゃ……後は…頑張って…』


 そう言い残し、佳穂は電話を切ってしまう。


 俺は絶望を感じながら、何も話さなくなったスマホを眺める。こんなんだったら電話をしなければよかった。


「ただいまー」


 俺の深いため息と同時に、下から声が聞こえた。どうやら、由衣が帰ってきてしまったようだ。


 そしてなぜか2階に上がってくる。2階には俺と父さんの部屋しかないため、めったに妹は上ってこない。


 予想外の展開に俺はめちゃくちゃ焦る。


 凛をどこかに隠した方がいいと思ったが、すでに遅かったようだ。


 ノックもせずに少し怒った形相の由衣が俺の部屋を開ける。


「お兄ちゃん!なんで学校サボってるの!? って、えぇ!?」


 由衣は凛を見た瞬間、驚き、口をパクパクしている。


 まずい。このままだと修羅場になる。


 俺は凛と由衣の挟まるように立ち、イチかバチかでこう言った。



「違うんだ! これは拾っただけで、誘拐などしていない!」

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