第16話

 浅野智樹には悪運を持ち、


 松田凛は幸運を持っていた。



 もはや能力と言ってもいいレベルの


 人生を大きく変えるレベルの


 とんでもないものだった。



 本来合うことがないであろう2人が


 偶然にも会ってしまった。



 強力な力を持つ者同士は


 無意識のうちに


 お互いを打ち消そうとするらしい。



 何が起こるのかは


 本人たちも知るはずがない。



 そもそも起こることすら


 知らなかったのだ。




 月曜日 告白の返事の期限まで 1日



「なあ、妹よ。お前確かネット小説ってやらをたくさん読んでいたよな?」


「うん。まあね。それがどうかしたの?」


 月曜日の朝、俺は朝ごはんの支度をしている妹に声をかける。


 俺の家では食事は妹の由衣が作ることになっているのだ。というか、俺がまったくもって作れないから由衣が作るしかない状況なんだけど。


 俺の母は5年前に突然他界した。


 父は仕事でニューヨークに行っている(たまに帰ってくる)。というわけで俺たち兄妹は仲良く2人暮らしだ。


 今まで親が1度も登場していないのはそういう理由があるからであって、別に忘れていたからとか、そっちの方が都合がいいからではない。


 たまに「親がいないなんて最高じゃん」とか言ってくる友達がいるけど、まったくもってそんなことないぞ。


 洗濯とか掃除とかいう家事を自分たちでやらないといけないし、何より保護者の許可がいるときや、保護者面談の時が面倒すぎる。


 今日も朝ごはんはベーコンエッグと白飯だけだ。ここ数か月ずっとこれだ。まぁ、おいしいから別にいいんだけど。


 俺は由衣特性のベーコンエッグ(ベーコンが大量に入っている)を食いながら、昨日の事を話す。流石に博隆との話や凛のパンツの話はしていないけど。


「へー。凛さんの家ってそんなに大きかったんだー」


 まったく信じていなかった由衣は目を丸くして驚いている。


「それで、いつになったらネット小説の話になるの? 私そんなに時間ないんだけど」


「あー、そうだった。そうだった」


 あまりに家がすご過ぎて熱弁してしまった。気づけば10分ぐらい話していた。そしてちょっと頬を膨らましている妹が可愛い。


「聞いて驚くな……あの凛さんが……なんと、ネット小説を書いていたんだ!」


「ええ!? あの凛さんが!?」


「…………」

「…………」


 なんか「あの」ってつけるとすごくバカにしているように聞こえるよね。ネタとかそういうのじゃなく、自然に出てしまったことが申し訳ない。


 そんなことより由衣が混乱状態なのか目をクルクルしながら手をモゾモゾしている。こんな落ち着きがない由衣は珍しい。どうしたんだろう?


「ま、ま、ま、まさか、ペンネームは『凛』ってことはないよね!!?」


「……何だ知っているのか?」


「え、え、ペンネームは『凛』なの!? ねぇ! そうなの!?」


「ああ、そうらしい。それがどうかしたのか?」


「お兄ちゃん知らないの!? 『凛』さんといえば、小説投稿サイトで圧倒的人気を誇りながらなぜか書籍化をしない伝説の作家さんだよ!!」


「へー。そんなにすごいのか……」


「なるほど……高校生だったら書籍化を断るのも頷ける気がする。もしかしたら、ただ趣味でやっているだけでプロになるつもりはないのかもしれないし……」


「へー。意外な一面があるんだなー。知れてよかったよ。ありがとう由衣」


「あ……うん……」


 妹があまりの衝撃でポカーンとしている。


 今日は何かいろんな妹の一面が見えていいなー。やっぱり妹は可愛い。……あ、別にシスコンじゃないからね!?

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