第12話

「彼女は特別な『力』を持っている」


 一瞬聞き間違えかと思った。そんな言葉、アニメとマンガとラノベしか聞いたことがない。


 まさか現実で聞く羽目になるとは……。


 いやいや!そんなことに感動している場合ではない!『力』?なんだろう?炎を出すとか、雷を落とすとか?


 ……なにそれ!超かっこいいじゃん!そんなんだったらいいなぁ!


「で、どういう『力』何ですか!?」


「なんかやけに嬉しそうだね。たぶん君が想像しているような中二病チックな力ではないよ。というか『力』だったら君だって持っているじゃないか」


「え、俺が……『力』を持っている…?」


「そうだよ。『異常に運が悪い』という力をね」


「……あれって『力』ですかね?俺は単なる体質的なものかと思っていましたけど。ほら雨男みたいに」


「確かに体質的な問題で運が悪いっていう人はいるかもしれない。だが君の場合、度を過ぎいているとは思わない?僕はそう予測しているんだけど」


 あれ?この人にはまだ、俺の運の悪さがどれくらいなのかを説明していなかったのにな。そんな簡単に予想とかできるものだろうか?


 俺はそうふと疑問に思った。だが、その考えさえもこの人にはお見通しのようだったらしく、


「おや?どうやら、どうやって予測をしたのか気になっているようだね?」


 怖いよこの人!実はこの人心を読めるという『力』を持っているとかやめてよ!


「いや、残念ながら、僕は『力』を持っていないよ?」


 本当かよ!おかしいだろ!


「いやー。君ってわかりやすいよね。思っていることをすぐに表情に出しちゃうタイプでしょ?ちなみに僕は君とは正反対だよ」


 そういえば、いつもニコニコしていて全く心が読めない気がする。なんか怖い。


「そうそう!正反対といえば……凛お姉さんも君とは正反対の『力』を持っているね」


「…俺とは……正反対…?」



「そう!凛お姉さんは『』という『力』を持っているんだ!」



「……え?」


 なんだ…そんなことか……じゃなくて、めっちゃええやんその『力』!……じゃなくて、


「それは体質的に運がいいのではなくてですか?」


「そうだよ!この城だって姉さんのおかげで買えたものだし!そもそも松田家がこんなに立派になったのはすべて彼女のおかげなんだ。株やら投資やらで年間軽く10桁は超える額を稼いでいるしね!」


「じゅ、じゅ、10桁!?」


 ついつい指で数えてみたくなるのは、きっと俺だけではないはず。気が付いたら一十百千万……と指を折っていた。みんなもぜひ自分の手でやってみてね!


「まぁ、1日に数百万稼いでいるんだけど、それがこの前の火曜日から急に止まったんだ。それどころか、僕たちが持っている株が何の予兆もなく暴落し始め、投資していた企業が火事に見舞われたり、その内容は日に日に悪化していくんだ。昨日なんて、僕がやっていたゲームのセーブデータが全部消えたんだよ!ひどくない!?100時間以上プレイしたのに!これ以上の不運を僕は考えられないよ!」


 たしかに100時間のセーブデータが消えるのはかなりつらいと思うが、会社が火事になるより不運なの!?


「なるほど……それで俺が凛と接触したのが火曜日だとわかったんですね?」


「そうだ。俺の予想では、たぶん君の『力』と凛お姉さんの『力』はそれぞれを潰しあっている状態なんだ。そしてたぶん君の『力』の方が優勢だ。わかるか?この意味」


「えぇ。つまりこのままいくと、ということですよね?」


「あぁ、確証はないが、きっとそうなるだろう」


「……」


「わかっている。君は悪くない。悪いのはあの『力』だ。このことさえなければ、君は悪い人でもなさそうだし、君の恋を応援してあげてもいいのだが、残念ながら、頭首として見逃すことはできないのだ。大変言いにくいのだが……」


 博隆は歯を食いしばり、俺から目を逸らした。その顔は本当に苦しそうだった。


 彼には似合わない顔。ニコニコと笑って人がよさそうな博隆が夢のように思えた。



「すまないが、凛お姉さんと別れてくれないか?」



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