第11話

「君にとって凛とは何だ?」


 凛の兄である博隆は俺の目を睨みながら、そう言った。今までの陽気な声はどこにいったのか、その声は低く重かった。


 とても冗談が言えるような雰囲気ではない。それどころか、ちょっと間違えるとすべてが終わってしまいそうな気さえする。


「…えっと……それはどういう意味でしょうか?」


「すまんな。言い方が悪かった。もっと具体的に言おう。君は凛を何だと思っている?知人か?友人か?恋人か?それとも『道具』か?」


「……『道具』…?」


「いや、たまにいるんだ。僕たちが金持ちであることを知って、それに付け込もうとする奴らが。そいつらは彼女の事を『道具』としか思っていない。金を出す財布だとね。君はそういう奴かい?」


「そんな奴に見えます?」


「さぁ?人は見かけによらないからね」


「ならば、俺が凛を好きになった話を全てしましょう。そうすれば、俺がそんな奴ではないと信じてもらえるはずです」


「そうか。なら聞こう。個人的にも気になっていたし」


 俺は凛との出会いや告白の事、そしてジョ○フルでの会話など全てを話した。もちろん出来事のみではない。その節々、俺がどう思ったのかどう感じたのかも細かくだ。


 俺は凛を『道具』だと思っている奴らが許せなかった。きっと彼らは凛の気持ちなど考えなしに、自分の欲望を押し通すのだろう。


 そんな自己中な奴らと同じにされたら、たまったもんじゃない。


 俺がそんな奴ではないと博隆に知ってもらうには、俺のことを少しでも知ってもらうのが得策だと思ったのだ。


 博隆は俺の話を一言たりとも逃さないように真剣に聞いているように見えた。彼の姉を守ってやりたいという思いが、しみじみと伝わってきた。



「なるほど。そういうことか」


「わかってもらえましたか?俺が彼女と会ったのは偶然で、彼女が金持ちだったことも、ましてや俺より年上だったことさえ知らなかったんです。俺はただ単純に彼女を愛しているんです」


「それは十分に伝わったよ。でも、少し質問していいかな?」


「構いません。俺に答えられることならなんでも」


「ありがとう。では、1問目」


 そう言って博之は一指し指を立てる。


「なんで、そんなに無計画に告白したの?」


「…えっと……それは…俺の単純なミスというか…俺の欠点であって……考えなしに行動しちゃうんです……」


「なるほど……つまり“計画性のないただのバカ”か」


「………」


 にこやかにサラッとハッキリ言う博隆。言い返せない自分につらい。


「じゃあ、2問目」


 今度は中指も立ててVサイン。あれ、このフレーズ…中村先輩の告白の時にも見たような……。


「君が告白した日……つまり凛お姉さんと初めて話した日は…もしかして、先週の火曜日だったりしない?」


「そうですが…、なぜ…?それを……?」


 細かく話したとは言えども、日付や曜日まで話した記憶はない。


「やはり、そうか。なるほど」


 一人コクコクと頷き何かを考えている。部屋は異様な緊張感に包まれていた。

「もう一つ質問させてくれ」


「え、えぇ」



「もしかして君はではないか?」



「…………」


 否定はできない。というかその通りである。あれ?でもこの頃そんなに運悪くないぞ?そういえば凛とあってから……普通……


「どうやら本当のようだね。やはりそうか。道理でこの頃おかしいわけだ」


「……どういうことです?なぜあなたがそれを知っているのです?」


「まー、ちょっとした推理みたいなもんだね」


「……推理?」


「確か君は凛お姉さんのことを全く知らないんだよね?」


「えぇ。まぁ」


「なら特別に教えてあげよう。僕の推理の前菜としてね」




「彼女は特別な『』を持っている」



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