第10話

 突然だが、みんなは「キャッスル」と聞いてどういうものを想像するだろうか。


 色鮮やかに装飾されている西洋風の城?がっちりとした城壁に囲まれている日本風の城?


 それは人それぞれだと思う。


 俺の場合、後者だった。どちらかというとそっちのほうが好きだからだ。まぁ、西洋風の城を生で見たことないけど。


 日本には多くの城が存在する。


 もちろん大阪城のようなバカでかい城はごくまれであるが、小さな城であれば数えきれないほど存在するだろう(たぶん)。


 俺の町にも存在する。小さくもないし、でかくもないくらいの中途半端な大きさ。


 もっとわかりやすく言おう。広島城とほぼ同じ形である。知らない人はググってくれ。


 そのような城は多くの場合、小学生の時遠足として何の意味もなく連れていかれる。社会科見学とか言っておるが、何も学ぶことなどない。


 多くの場合、当時の史跡などほぼ残っていないからだ。だからなのかは知らないが、俺の小学校ではその城にはいかなかった。


 だが今日、ここに来て初めてその明確な理由が分かった。


 町のど真ん中に建っている日本風の立派な城は、だったからだ。



 日曜日 告白の返事期限まで あと2日



 朝、凛からラインが来た。彼女が泣いて帰ったあと、なんのやりとりもしていなかったものだから、内心ビクビクしながらラインを開いたが、そこには無造作に住所と日時しか書かれていなかった。


「何だこれ?」と正直思ったが、そういえば前に「私の家に遊びに来なさい」とか言っていたことを思い出した。


 これが凛なりの彼女の家の招待なのかと疑問に思いながら、結局行くことにした。


 残念ながら土地勘はないものだから、タクシーを呼んだ。運転手に住所を伝え、1時間後そこについた。


 俺は予算オーバーのタクシーの料金がどうでもよくなるくらい驚いた。そこがどこからどう見ても城だったからだ。


 堀も塀もちゃんとある立派な城だ。俺の下りた場所からは門が見えない。とりあえず俺は入り口を探すことにした。


 そして入り口を探すこと10分、やっと今に至る。



「何なんだよこの広さ。バカみたいだな」


 そんなことを愚痴りながらやっと1個目の角を曲がる。そこにもやはり永遠に続くような長い堀と塀。


 だが、そのちょうど真ん中に大きな門があるのが見えた。あの大きさといい、立派さといい、常人には理解できない代物だ。


 ついにここまで来たのか!こんなに家の玄関を探したのは初めてだ!やったぞ!やったー!あまりの嬉しさに小走りになる。


 やっと扉の詳細が見えるようになってきたころ、そこには誰かいることに気が付いた。門番だろうか。やはり金持ちはやることが違うなー。少し感心した。しかし、日本風の城の門番ってどんなんだったけ?言われてみれば見たことがない。和服とか着ているのかな。


 そこにいたのはメイドさんだった。場違いすぎだろ!ひどいよ、俺の夢をぶっ壊しやがって!しかも3人もいらっしゃる。


「お待ちしておりました。智樹様ですね?」


 真ん中の女性がぺこりとお辞儀をする。長いまっすぐとした髪が印象的なきれいな人だ。


「私は松田家に仕えさせていただいているカオリと申します。凛様より智樹様の案内をするよう命じられましたので、仕方なく参上しました」


 今、仕方なくって言ったよね!?なんかひどくない!?まぁ、いいけど。


「どうも、ありがとうございます。正直、1人でこの城には入れそうになかったですからね」


「そうですか。では早速中に参りましょう」


 なんか対応が冷たいな。


 俺たち4人は無言で城の中に入っていく。塀の内側には森かなと思うくらいの大自然が広がっている。


「あの、そちらの二人は?」


「彼女たちは万が一にのための者です。気になさらないでください」


 いや、気になるよ!万が一って何?ここで何か起こるの?


「いや、名前が知りたいのだけどな」


「彼女たちには名前が与えられていません」


「与えられていない?」


「はい。この家では、ある一定の業績を持った者だけがこの家の頭首である博隆ひろたか様から名を授かるのです。それまで、彼女らは自ら名前を名乗ることを禁止されています」


「へ、へー」


 なんかすごい規則だなー。名前がなかったらいろいろ不便そうなのに。


「まずは、頭首、博隆様のお部屋に参ります。お客様はまず、頭首に顔を合わせることになっていますので。これもこの家のルールです」


「へ、へー」


 なんか意外と固いな。たぶんその博隆様もお堅い人なんだろうなー。そういう人は苦手だからあまりしゃべりたくなかったのになー。


 そして俺は大きなふすまの前に通された。


「博隆様、智樹様をお連れしました」


 この中に君主がいるのか……ゴクリ。緊張するな。


「ちょ、ちょっと待って!あとちょっとでセーブポイントだから!あと30秒だけ!」


「………」


 俺の想像は見事に裏切られ、中からは活気のある青年の声が聞こえてきた。え?何?どういうこと?


 1分後


「ふー。やっと終わった。あ、入っていいよー!」


「では、失礼します」


 カオリがふすまを静かに開ける。


 広い!100畳はあること間違いなかった。その一番奥では、1畳分くらいありそうなテレビとPS4があった。


 コントローラーを握っているのは上下ジャージ姿の活発そうな青年。え?どういうこと?すでに俺の頭の中はショート状態である。


「おお!君が智樹君か!よく来てくれた!凛お姉さんと仲良くしているんだって?家まで呼ぶなんて凛お姉さんもなかなか積極的だねー」


 追い打ちをかける様にさらに意味の分からないことを言う。


「…『凛お姉さん』……?」


「そうだよ。あれ、聞いてないの?僕は彼女の弟の博隆さ!よろしく!」

「え?え?え?」


 もう、何が何だかわからない。


「カオリさん、あんなに説明しといてって言ったのに、サボったでしょ?」


「はい。申し訳ありません。ですが、あまり彼と話したくなかったので」


「なんで!?」


 俺、何かしたっけ?


「彼は私とは初対面に関わらず、ジロジロと厭らしい目で私を辱めてきました」


「…誤解だよ!大いに誤解だよ!確かにじっくりと見たけど、それは何でメイド服なのかなって疑問に思っていただけで、別に厭らしい目で見たりしていないよ!」


「まぁ、まぁ、喧嘩は好ましくないよ。智樹君、確かにメイド服は可愛いけどそんなに見たら、いくらカオリさんだって恥ずかしいよ」


「いや、別にそんなつもりはなかったのですが」


「見たいときは彼女にばれないよう、こっそり隠れてみないといけないよ!」


「……。あの一応聞きますけど、なんでここはメイドさんなんですか?場違いな気がするんですけど」


「もちろん、僕の趣味だよ!!」


「お前かよ!!」


 ただの変態じゃないか!


「智樹様、いくらお客様でも我が頭首に『お前』という発言、失礼に値するぞ」

「わ、わ、ごめんなさい!ついノリで……」


「ㇵッハッハ!いいではないか!僕はそんなに気にしてないよ」


「ですが……博隆様…」


「ㇵッハッハ!智樹君、君からは僕と同じ匂いがするんだよ!変態という名のね!」


「しませんよ!変態じゃないです!」


「ㇵッハッハ!そうかい!そうかい!ㇵッハッハ!」


 豪快に笑う博隆。思ったより話しかけやすそうでよかった。


 ちょっと変なところがあるけど、たぶん根はいい人なんだろう。そう信じよう。


「さて、智樹君。冗談はここら辺にして、そろそろ本題に入ろうではないか。」


 がらりと空気が変わるのが目に見えるように分かった。俺は唾をゴクリと飲む。博隆は何かを見極めるような眼をしてゆっくりと口を開いた。




「ズバリ聞こう。君にとって凛とは何だ?」


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