第5話

 俺は運が悪い。


 もしも俺が松田凛に告白する前に中村先輩が告白してくれたら、俺は間違いなく、中村先輩と付き合っていただろう。


 中村先輩は可愛くて性格もよくて魅力的な女性だ。多くの男性が彼女と付き合いたいと思っているのは間違いない。


 俺だって付き合いたい。彼女と付き合ったら、どれだけ人生が楽しくなるのだろうと思う。



 だけど、



 放課後の一連の後、まだ何かビックなイベントでも起こるのではないかと、内心ビクビクしながら家に帰った。


 それくらい今日はおかしな日だった。こんなカオスな1日は最近のラノベでもあまりないだろう。


 無事に家に帰った俺は、リビングで宿題をしている妹の由衣ゆいに「ただいま」と言う。


 いつもなら、ここで俺も一緒に宿題を始めるのだが、俺の頭はそれどころではなかった。


 ぐったりとリビングの椅子に自分の体を預け、ため息をつく。


 1週間以内に松田凛か中村小百合かを選ばなければいけない。


 もちろん、松田凛を選んだからといって付き合うことにはならないのだけど。


「ねぇ、お兄ちゃん。


「……お、お、お前、ど、どうしてそれを……」


「だって、お兄ちゃん、朝っぱらから鏡の前で10分くらい髪をいじっていたし、えらい細かく服装チェックもしていたじゃん。それに由衣がただ、おはようって声かけただけなのにすごいドギマギしていたし、あー今日は告白でもするのかなーって思ったよ」


「そ、そんなに分かるもんなのか?」


「10年もお兄ちゃんと住んでいたら、それくらい分かるよって言いたいけど、本当は昨日お兄ちゃんが、あぁ、緊張するなー、振られたらどうしよーって独り言ブツブツ言ってるの聞こえちゃっただけ」


 き、聞かれていたのか……。恥ずかしい。


「で、どうだったの?その様子だと、成功したってわけじゃなさそうだけど」


 俺は、告白した女の子が全然創造と違っていて、しかも放課後に部活の先輩に告白したことを細かく話した。


 さすがの由衣も驚いていたが、時たま首を縦に振り、静かに聞いてくれた。


 なぜ妹に簡単に打ち明けたのかって?


 別に自慢したかったわけじゃない、誰かに聞いてもらわないと、解決できない気がしたから話しただけだ。


「ふーん。なるほどね。想像以上にシンコクだね☆」


 由衣は嬉しそうにポニーテールを揺らしている。


 そんなに嬉しそうに言わなくても……。


「これは、あくまで由衣の見解なんだけど―。たぶん、その…凛さん?彼女、お兄ちゃんのことを見て遊んでいるだけだと思うよ?」


「どういうことだ」


「だーかーらー。お兄ちゃんみたいな童貞をまるで自分に気があるかのように見せかけて、おちょくって、楽しんでるんだよ」


「んん……?どういう根拠があって言っているんだ?俺には彼女がそんな悪魔みたいな少女に見えなかったけど?」


「そうだなー。確信的な理由はないけど、『有名な美少女』って自ら言ったんでしょ?あの局面でそんなこと言うなんて、よっぽど馬鹿なのか、天然なのか、それとも本当に『有名な美少女』でもてまくっているのか、どれかだよね?」


「お、おう。まぁ、そうなるかもしれない……」


「で、ラインを交換したよね?その時、凛さんなんて言ってた?」


「確か……、『』、『』……あ!」


「そう。その発言。そのなんとなく言った言葉で、由衣はもしやと思ったの」


「な、なるほど……一理ある…。ちなみに、その発想はいったいどこから出てくるんだ?…!も、もしやお前……学校で実際そんなことやってるとか!?」


「ち、違うわよ!バ、バカ!最近読んだネット小説にたまたま同じシチュがあっただけ!私がそんなことをする人だと思う!?」


 由衣は誤解を解こうと、手を大きく振って弁明している。


 必死になる妹……可愛い!ジャスティス!!……おっと、俺はシスコンじゃないぞ。


「やってるかもしれんだろう?お前は可愛いんだし、やろうと思えばできるはずだ」


「ふぇ?ふぇ?か、可愛い?」


 由衣は一転して急に赤くなり、うつむいてしまう。


 恥じらう妹……可愛い!ジャスティス!!……おっと、俺はシスコンじゃないぞ。


「と、というかお兄ちゃん、普通に小百合先輩と付き合えばいいじゃん。なんでそんなに凛さんが気になるの?」


 まぁ、そうなるわな。


 俺は腕組みをしてうーんと唸る。


「なんか頭が疲れていて、まともに考えられないみたいだ。今日はもうとりあえず寝るわ」


 俺が寝ようと立ち上がると妹は不意に俺の腕をつかんできた。


「??」


「えっと……その……。お兄ちゃん、………………は……………ね」


「ん?なんて?聞こえなかったぞ」


 純粋に聞こえなかっただけだが、由衣はなぜかポッと赤くなる。


「や、やっぱり何でもない!お、おやすみ!」


「お、おう。おやすみ。えーと、今日は何かありがとな」


 なぜか下を向いて赤くなっている妹を横目で見ながら、俺は自室へと向かった。


 しかし、その日は結局あんまり眠れなかった。



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