リーディングヒッター
放課後の教室には私ひとりしかいなくて、差し込む夕日のまぶしさと、金属バットの突き抜けるようなヒット音が、窓の向こうから乱暴に飛び込んでいた。
私は机にノートをひろげて、今日の英語の復習をしていた。
くだらない文法問題がわからなくて、みんなの嘲笑の目にあった2時間目のリーディングが、ひどい憎しみとともに思い出された。
「一生忘れないさ、くやしい気持ちを忘れたら、生きる意志を放棄したのとおんなじだ」
そうつぶやいて、ノートにつまらないセンテンスを書きなぐった。力を込めたシャープペンシルの芯が、醜い音を立てながら何度も折れた。
「物怖じしている場合じゃないから、目だけしっかり開いていたら、たいていの球筋は見えてくる。それが常識でしょう」
窓の向こうには金属バット。向かってくる球を気持ちよく打ち返している。
教室の隅には私のシャープペンシル。憎しみにまかせて白いノートを黒くつぶしていく。
そんな放課後の、日差しのまぶしい教室のこと。
誰にとってもどうでもいい、けれど、私にとっては忘れられない、そんな午後の教室のこと。
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