オレンジ色のまんなかで、わたしは恋をしていた。
「ちがう、そうじゃないんだよ。私の1番大切なこと、心の奥に隠してきてしまったこと、それを言いたくて、伝えたくて、だから私、ここに来たんだ」
夕暮れの体育館は空気が止まったようで、差し込むオレンジ色の光は目に眩しくて、私と彼の二人だけが真ん中にぽつんとたたずんでいた。
私の声はどこへいく目的も見つからないまま、見境なく反響して、目も当てられない私の胸の奥と、目を細める彼のオレンジ色の横顔に、ぶつかって溶けた。
そう、初めから知っていた。
彼には好きな女の子がいて、私のことはただの友達で、小学校から仲の良い何人かのうちのひとりに過ぎないということ。だから、この気持ちが成就することは決してない。そんなことはわかっているのだ。けれど、もはや片想いをこじらせた私には、留まることなんかできるはずがなかった。
「わたし、あなたがすき。それ以上なにもない。あなたが、すきだよ」
私がそう言うと、彼は少しだけうつむいた。けれど、すぐに顔をあげて、私のことをしっかりと見据えた。
「うん、そうか。ありがとう。でも、ごめん」
迷うことなく、そう言った。
2階の窓からは光が差し込んでいて、オレンジ色に染まった体育館の中は、ひらひらと舞うほこりの粒が反射して美しく輝いて、
私は思わず目を細めた。
狭くなった視界のなか、光の粒が次々と丸く滲んで、涙が溢れたのだとわかった。
初めから知っていた。この結末も、胸の痛みも。
だけど、涙の向こう側にこんな美しい景色が広がっているなんて、それだけは知らなかった。キラキラと踊り舞う光の中に、私は立っているのだ。
ああ、なんて清々しい片想いだっただろう。成就することのない、救いようのない恋だったけれど、好きになってよかった。ほんとうにそう思った。
「ありがとう」
溢れた涙はこぼれて頬を濡らしたけれど、その言葉は自然と私の口からこぼれ落ちた。
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