せかいどうめい

 「誰にでもやさしくしたいと思うことは、誰からもやさしくされたいと願うことと、同じように傲慢で自分勝手なことだと、そう思わない?」

 九条みなぎはそう言って、私に小さなろうそくを差し出した。金色の受け皿が妙に生々しく、その円形はゆがんで所々ひび割れていた。炎に照らされて浮かび上がった私の顔は、その金色のなかでくゆりと歪んで口を曲げていた。立てられたろうそくは短く、今にも消えてしまいそうな弱々しい炎が揺れていた。

 気味の悪い儀式だと私は思った。まるで自己否定を正当化して、自分という個人をなかったことにしてしまうような、生産性のない儀式のようだと。

「こんなことをして、いったい何の意味があるというの」

 私はつぶやいた。

「自分がみじめになるだけなのに、まるで高次元にでも到達したみたいに、まわりの誰かのことを無視して、目をつぶって、そんなことで生きていけるわけないじゃない」

 涙がこぼれそうになった。大切な友人の気持ちを理解できなくて、本当に情けない気持ちになった。

 みなぎは、そんな私を軽蔑するように見ると、

「あなたは自分を救ってくれる存在のことを知らないのよ」

と言った。

 美しい顔だった。汚れを知らない、安らかな顔だった。羨ましくはないけれど、自分もあんなふうになれたら、幸せに包まれて過ごしていけるのかもしれないと、少しだけ思った。

 けれど、その幸せは、本当に私の幸せだろうか。私のための、私だけの幸せだと言えるだろうか。何者かのつくった幸せという概念の中に自分を浸して、幸せだと勘違いしているのではないだろうか。なぜなら、自分を幸せにできるのは、自分しかいないのだから。

 「救ってくれる存在って、いったい何。そんなものは知らないし、知りたくもない。私はどうしたって結局、私自身を信じて生きるしかないのだから。この世界でただひとつ知覚できる真実は、自分しかないじゃないか」

 不満そうにこちらを見つめるみなぎを無視して、私はその小さなろうそくの炎を、思いっきり吹き消した。

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