そして雨は降りはじめた

 そして雨は降りはじめた。

 夕闇の気配に紛れて、微かな草のにおいを地面から引き上げるように、長く、ながく。

 片山かのかは小さなお寺の石段に腰かけて、濡れていく土の鈍い音に耳を澄ませていた。雨はしだいに強さを増して、水を含めば含むほど地面もその重みを増して、まるで鈍器でたたかれたような不安定なメロディを響かせていた。

「ここにいてひたすら待ち続けたら、すべてが終わってくれているなんて、そんな奇跡のようなことはありえないかしら。クラスの中で居場所がなくなってしまったことも、くだらないお金のために体を傷つけてしまったことも、お兄ちゃんが人を殺してしまったことも。みんな遠い過去の一場面になって、思い出すことも億劫なくらいに忘れ去られてしまうように」

 両手で顔を覆って、私はひとりそう願った。強い風が吹いて、あおられた雨粒が手の甲を濡らした。ただ冷たい雨が、外側から激しく、強く。まるで、世間が私に浴びせかけるいろいろなものと同じように。

 それならば、私の手のひらを内側から濡らす、これはいったい何だろう。


 そして雨は降り続く。

 草のにおいも、土の鈍い音も、夜の深みに飲み込まれて、もう見えなくなったとしても。

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