なにも知らない
本来ならば、今すぐにでも坂井の家をたずねて、洗いざらい打ち明けてしまわなければいけないのでしょう。それが筋というものだし、義務であるのだと、私だってそう思います。けれども、いったいどうして、お嬢様がいなくなってしまったこの状況で、そんなことができるはずがないのです。まず何よりも先に、お嬢様の行方をさがすこと、それがいちばん大切に決まっているではありませんか。ともすれば、お嬢様の命が危ないかもしれないこの状況で、例の件について打ち明けるよりも、そのほうが何倍も大事だと思いませんか。
だから、私は坂井の家に向けるはずの足を、思い悩んだ末に、警察へと変えたのです。そう、さんざん悩んだ末のことです。当然ではありませんか。なにせ、お嬢様のことが、何にも増して心配だったのですから。
「そうやって、彼女はまくしたてるように口をひらいて、結局のところ例の件、大伯父の家と、そこで祀られている赤い血を吐くきつねの面について、最後まで誰にも語ろうとはしなかった。まるで何かを恐れているように。何にとはわからないが、とにかくなにかを恐れているように」
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