むらのこと

 おとなも子供も関係なく、村中の人々がその神社に集まっていた。

 日が落ちてもなお暑さの残る真夏を絵に描いたような夜で、手をつないだ親子連れも、くたびれたご老人も、みな額に汗をにじませながらやってきた。

 浴衣や法被に身を包んだ人たちは、境内の真ん中に焚かれた大きな炎を中心に、周りをぐるりと取り囲んで歌い踊りながら、ひたすらに酒を飲み続けていた。

 私は本殿の端に一人立ったまま、その光景を見ていた。首から下げたカメラの重みが、胸に食い込みそうだった。

 とてもじゃないけれど、ひどい話だと思った。

 人がひとり死んでいるというのに、彼らはまるで何事もなかったかのように、村祭りを続けているんだ。

 御神木の根元には、亡くなった男が転がされていたが、誰ひとりそちらを見ようともしなかった。ただ酒を飲み踊りつづけ、ゆらゆらと揺れる大きな炎が、死んだ男の頬を撫でるように赤く染めていた。

 私は我慢できなくなって、踊りのなかに飛び込んだ。

「みんなおかしい。なんとも思わないんですか。あの人は亡くなったんですよ」

 そうまくしたてると、男のひとりが私の肩を掴んだ。口の端をぐいとあげてゆっくりと微笑んだ。

「そうは言ってもね、わたしたちが殺したわけじゃあないんだ。祭りのさなかに、何らかの大きな力が働いて、そういうことになったに過ぎない。それを外の人たちがなんと呼ぶのかは知らないが、この村では運命と言うんだよ」

 そう言って、ぎょろりとした目を左右に動かした。

 私はひどく恐ろしくなって、思わず左右に首を振った。

 太鼓の音が不規則に鳴っていた。誰かが声をあげると、他の人達がそれにつづいた。

「納得してもらえないのなら、わたしたちのことを気ぐるいとでも罵ればいい、それを否定はしない。けれど考えてみてほしい。誰かが死ぬことと、祭りを途中で止めることでは、どちらがより恐ろしいのかを」

 真剣な顔をして、彼は笑った。

「いや、祭りは楽しいなあ」

 誰かが言った。それにつづいて、口々に「楽しい楽しい」と言い合う声が聞こえた。幼い男の子が私の手を掴んで「おねえちゃんも、たのしいでしょう」と言った。

 皆が私の方を向いて、真剣に笑っていた。

 炎に照らされた顔はゆらゆらと影が揺れて、まるで本当に笑っているように見えた。

 

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