歩調

 からだが動かなくなってしまうのではという不安を抱えて、私はひとり夜の街を歩いて帰る。それはまるで未来のない話ではなくて、これからを生きるために必要なことだった。

「たいしたおもてなしもできないから、あなたのことをいつだって想うことにしたよ。たとえばジョンがヨーコにしたように。いや、そこまでではないけれど、私なりのやりかたで、私なりの気持ちで、ね」

 都会の夜は明るくて、空は薄ぼんやりと光っていた。ここからは星のひとつも見えなくて、代わりにまばらなビルの明かりが見えた。それだけで寂しくない。もしも誰ひとりとして私のことに関心を持っていないとしても、かまわなかった。

 背中の痛みにおびえながら、私はそのまま歩き続けた。この先には街の終わりがある。そこへたどり着いてしまったら、私はどうなるだろう。

「そんな未来の話は、このビルの壁に反響して消えてなくなってしまえばいい」

 そんなことを思った。

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