パドブレ

 踊る私を見ていた。

 それは真冬の白昼夢で、取り返しのつかない現実で、やはり目も当てられないような、ただの私だった。

 運動場には誰もいなくて、冷たい風が頭の上の方で微かに鳴っていた。乾いた土の上には、私と踊る私がたった二人で向かいあっていた。

「気に病むことなんかないよ、あなたがどれだけつまらない人生を生きていくことになったって、私は応援し続けるし、私には本質的な意味では関係がないのだから」

 踊る私はそう言って、嬉しそうに笑った。それは私にとって最高の皮肉で、あふれる笑顔の彼女が最高に憎くて、持てる感情のすべてを込めて私は彼女を睨み付けた。

 ダンスに打ち込んだ3年間だった。高校生活のほとんどを懸けて踊ってきた。

「努力をしたら報われるって、みんなそう言っていたじゃない。夢は待っていてもダメだって、自分で叶えるものだって、誰もがそう教えてくれたじゃない」

 それなのに、ねえ、どうして。どうしてなの。

 踊る私は左右にステップを踏みながら、そんなこと当たり前でしょ、と言った。

「だって、努力なんて誰だってしてるんだもの。そんなことで差が出るわけないじゃない」


 私はその場から動くことができず、踊る私を睨み続けた。

 惨めな自分をあざ笑うように、踊る私は踊り続けていた。その姿はとても美しくて、可憐で。

 殺してしまいたい。そう思った。

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