雪の日
雪道をすべらないようにゆっくりと歩いて、彼女の生まれた街へ向かう。右手には花束を、左手には何も持つことはなく、ただそこへ向かう。それは私がしなければならない、私に残された唯一の救いだった。
「そういえば昔々に清少納言も、世の中で一番つらいことは人に憎まれることだって言っていたらしいよ。千年も前から人は変わらないんだ。ねえ、遥香、私はどうしてあなたのことを、あんなにも憎んでしまったんだろう」
鈍い音を立てながら、雪をしっかりと踏みつけて私は歩いた。振り返ると規則的な足跡が、呪いのようにずっと続いていた。
「もしもあなたと一緒に、歩くことができていたのなら」
もう叶わない願いを口にしてしまって、涙が出そうになった。
彼女の眠る街までは、まだ距離がある。私は思わず右手に力をこめた。花束はきゅっと小さな音をたてた。その微かな悲鳴が、まるで彼女の首を絞めたあの時のようだと、そう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます