雪の日

 雪道をすべらないようにゆっくりと歩いて、彼女の生まれた街へ向かう。右手には花束を、左手には何も持つことはなく、ただそこへ向かう。それは私がしなければならない、私に残された唯一の救いだった。

「そういえば昔々に清少納言も、世の中で一番つらいことは人に憎まれることだって言っていたらしいよ。千年も前から人は変わらないんだ。ねえ、遥香、私はどうしてあなたのことを、あんなにも憎んでしまったんだろう」

 鈍い音を立てながら、雪をしっかりと踏みつけて私は歩いた。振り返ると規則的な足跡が、呪いのようにずっと続いていた。

「もしもあなたと一緒に、歩くことができていたのなら」

 もう叶わない願いを口にしてしまって、涙が出そうになった。


 彼女の眠る街までは、まだ距離がある。私は思わず右手に力をこめた。花束はきゅっと小さな音をたてた。その微かな悲鳴が、まるで彼女の首を絞めたあの時のようだと、そう思った。

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