どうなったと思います?
「――昔々、とある王国にとても魔法に優れた王女様が居ました。」
メンシュはそう言うと、手に持った本の頁をめくる。
その動作を、母親に抱えられた町の子供たちは目を輝かせて見ていた。
「――王女様は、大人になるまで平和に暮らしていましたが、あるとき国に異変が起こりました。魔王の国が攻め込んで来たのです。」
声色を変えながら、聞き手が話に惹きこまれるように抑揚をつけて話すメンシュに、子供たちは意識を集中させていて、大人でさえも真剣に聞いている。
「――大勢の悪い魔物や魔族に、その国の兵隊さんたちは次々と倒されていきました。
もう後がなくなった王国の王女様は、言い伝えにあった儀式を行いました。」
メンシュはページをめくると、軽く息を吸い込んで話を続ける。
「――すると、どこかからか宝石の勇者様が現れたのです。
黒い髪に黒い目をした宝石の勇者様は、王女様のために次々と悪い奴らを倒していき、最後には魔王までも倒しました。
こうして、その王国は救われました。
王国を救って英雄となった宝石の勇者様は、その国の王女様を妻にして、世界を救うための旅に出ました。
おしまい。」
メンシュはそう締めくくって本をぱたんと閉じると、本を横に置いて顔を上げる。
「これで本日のお話は終わりです。」
メンシュの話を聞いてぼんやりしていたフィランは、頭を下げたメンシュに気が付き、慌てて自分も頭を下げる。
すると、その場は暖かい拍手に包まれ、子供たちも満足そうに親の真似をして拍手をした。
「ねえ、そのあとどうなったの?」
拍手が鳴りやまぬうちに、母親に抱えられている一人の女の子がメンシュにそう尋ねた。
「どうなったと思います?」
「うーんとね、二人はずぅっと幸せにくらすの!」
女の子が嬉しそうにそう言うと、メンシュはふっと小さく笑い、女の子の頭を撫でる。
「あなたがそう信じれば、きっと二人はいつまでも幸せですよ。」
メンシュはそう言うと女の子を撫でるのを止め、数冊出しっぱなしになっている本を片付ける。
フィランはそんなメンシュに近づくと、帰っていく子供たちに聞こえないように小声で、メンシュにあることを尋ねた。
「実際、その二人はどうなったの?」
「さぁ?
昔話ですし、そこまで知りませんよ。」
「あ、そうなんだ。なんかメンシュはなんでも知ってる気がして。」
「そんなわけないじゃないですか。僕をなんだと思っているんです?」
メンシュは本を抱えながらそう言うと、教会の蔵書室に入って本をもとの場所に片付ける。
蔵書室はかなりの広さがあり、棚には所狭しと本が並んでいた。
日本で例えると、学校の図書室ほどだろうか。
まぁ、学校によってだいぶ大きさに差があるので、その例えは正確とは言えないのだが。
「やっぱり、ここ本多いよね。」
「読書は僕の趣味ですからね。フィランさんも読書は好きでしょう?」
「う、うん!」
まさか、メンシュと共通の話題がほしいから本を読んでいるとは言えない。
まあ、メンシュと共通の話題になると考えると、読書が好きだということになるので嘘はついていないことになる。
かなりグレーだとは思うが。
「そろそろ新しい本を買いましょうかね。」
「え。あたしまだここの本全部読み切ってない……」
「僕が読みたいから買うんですよ。まぁ、読み返すのも楽しいんですけどね。」
メンシュはそう言い棚から一冊の本を引き抜くと、その本を持って歩き出す。
そして、もう一冊の本を手に取ると、最初の頁を開いてなにかを確認したあと、その本も抱える。
「なにか読みたい本はありました?」
メンシュは何故かぼんやりとしていたフィランにそう話しかける。
すると、フィランははっとした表情を浮かべると、すぐに表情を戻して「なんでもない」と首を横に振った。
「えっと、どれがオススメ?」
「うーん。この本ですかね。」
メンシュはそう言うと一冊の本を本棚から出して、フィランに渡す。
フィランはそれを受け取るが、何故かその隣にある本が気になった。
「その本は?」
「あー、グラオベン教の最近の歴史が書かれている本です。」
「面白い?」
「僕はあんまりお勧めしませんね。フィランさんには難しすぎます。」
「ならやめとこ。」
フィランはメンシュから受け取った本を大事そうに胸の前で抱くと、「じゃあ、さっそく読もうか」と言って蔵書室から出て行く。
メンシュはそれを見送ると、はぁっと安堵の息を吐いた。
「危なかったぁ……
名前が出てないとはいえ、自分のことが書いてあるのを読まれるのは恥ずかしい……」
メンシュはそう言うと、いつまでも蔵書室から出てこないとフィランに怪しまれないうちに蔵書室から立ち去る。
フィランが着にした本をいっそ燃やしてしまおうかと思いつつも、あれが本であることには変わりないのでそれには抵抗があり、結局そのままになってしまっていた。
だが、そろそろ本の処分も考えなければいけないかもしれない。
そんなことを考えているうちに、メンシュは溜息を吐いてしまう。
「どうしたの?」
「いえ、なんでもないです。」
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