EsクラリネットーⅥ
「う、動くな!」
「…なんだよ、あんたら」
「し、しかし隊長、目が赤くはありませんが…?」
「いや、油断するな!偽装かもしれん」
ひぃいどうするよ私!起き…る?起きていいのかなこれ!さらにややこしいことになりそう!
そのとき、ガチャン!と大きな音が部屋に響いた。
「っおい、離せよ!!」
「抵抗するな、なんだ…?ホルンの
!!!!!
慌てて顔をあげると、イナリの小さな手に、見たことのない重厚で透明な―手錠らしきものがはめられていた。
「ちょ、ち、違います!!その子は――」
部屋中の目が私の方を向いた。ひぃ。
「そ、その子は私の…えっと、なんというか」
「まさか許可証無しの『
「まとめて連行した方が早いのでは」
「いや、ちょ…」
全く聞く耳を持たない。
………そもそも、倒れてる人の心配もせずにグダグダグダグダ何を話してんの。
なんか、うん。
腹立ってきた。
「あぁもう!!私たちのことはどうでもいいから…!早くこの子たちを助けて下さい!だいたい、おかしくないですか?これだけ特殊部隊みたいな人がたくさんいて、なんで最初に人を助けようとしないんですか。なんで見向きもしないんですか。住民を守るのがあんたたちの仕事なんじゃないんですか!」
ポカンと口を開けていた隊員たちがあわててこちらにやってきた。
うっしゃあああ言ってやったぞ!!!!ちょっとスッキリした…。
「あー…。彼は
「絶っ対に違います」
「では、どれが吸魂楽器ですか?」
「え」
ああしまった。イナリじゃないって言うことは『Esクラ』をこの人たちに引き渡すってことになるのか。
…この、
というか、嫌だ。私が。
「い、居ません…」
「は?」
「こ、ここには、悪い
「何を言っているんだ君は…!まさか庇うつもりか、吸魂楽器なんかを」
「…っ」
ああやっぱり通りませんよねそりゃそうですね!!くそう、ちょっとかっこよく決意したのに…!
どうしよう、誰か、誰でもいいから助けてください。
そう思ったとき、後ろの隊員たちがざわめき始めた。
「あ、ちょっとなんですかあんた!一般の方は立ち入り禁止で――」
「一般の者ではないです。お構いなく」
「いや…おい、誰か止めろ!」
「し、しかし…!なぜか上手く触れなくて……」
「はあ?」
「こんばんは、
頭上からクールな声が降ってきた。
人混みを掻き分けて目の前に現れたのは、暗闇に光る夜光パーカーに、真っ赤なヘッドホンの。
「しゃ、社長さん〜〜〜」
「迎えに来ました」
「なんでわかったんですか…?」
「みなさんもこんばんは。七宮相談所代表の七宮です。この度はうちの社員が失礼致しました」
「な…七宮相談所!?」
社長さんがイナリの手錠に触れると、手錠はカシャンと外れて床に落ちた。
「はい。すみません、この2人はまだ新人なものでして…今回はただの調査に着いて行くだけの予定でしたが運悪くこの部屋の荷物が崩れ、やむなく力を発動した…そんなところでしょう。そうですよね?」
「は、はい!そりゃもうびっくりしましたよ!」
はははと無理やり社長さんに合わせる。「ほんとかぁ?」とでも言いたげに隊長がこちらを見てきた。すみません、大根な新人で…。
「はい、ではそういうことですので。東海林さん、イナリくん、帰りましょう」
「へっ」
そう言って社長さんはミキちゃんを背負い、左手で『
「それでは、特殊部隊の皆さん、出動お疲れさまでした」
「な…しまった、取り押さえろ!」
なに?どこから逃げるつもりなの?出入口は完全に塞がれてるし、あとは…窓?いや、ムリムリ!
「―――『
社長さんのその一言が聞こえた瞬間、目の前の景色が…うん、何言ってるか分からないと思うけど、七宮相談所に変わった。ほんとに、パッと一瞬で。
ちょうど入口の扉に背を向ける形で私たちは立っていた。
私たちの前では塩子さんとフロルちゃんがほっとしたように笑っていた。
「おかえりなさい!」
「よ、よかったです…!」
「心太くんと
私の横にはイナリが立っていて、同じようにポカンとしている。
「え、なにこれ…どういうことですか」
「どういうこと…ですか。科学的に説明するには複雑すぎますね。強いて言うなら、これが『
「コンダクターって、何なんだよ」
イナリが私が思っていたことと全く同じことを聞いた。
「この前、フルスコアに名前と血判、していただいたじゃないですか」
「はい」
「あれは自分の――『七宮七海の
「へええ」
あの血判にそんな意味が。頑張って押した甲斐がありました。
「さて、ではもっくんとEsクラさんを上に寝かせてきます。今日はお疲れ様でした」
そう言って社長さんは先に『Esクラ』を抱き上げて、洒落た螺旋階段を上がって行った。
そして、真ん中くらいでピタリと足を止めた。
「………明日あたり、面倒なことが起こるかも知れません」
「へ?」
「すみませんが、明日は連絡が来たらすぐにここに来れるようにお願いします」
「はあ…、あ、けど明日は」
そのまま私の返事を聞くことなく、2階に行ってしまった。ああ…。
「何かあるのか?」
「ゆーちんの誕生日…あ、しまったプレゼント買ってない!」
「もうほとんど店なんかやってないんじゃないのか」
「あああどうしよ、なんか材料スーパーで買ってケーキ作ろうかな」
こんな他愛もない会話で今日を終えれることに、心の底から感謝したい1日でした。
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