やばい相談所ーⅣ

「…った、ただ、い、ま」

「おいあすか、寝るならベッド行けベッド」

「疲れたよぉー…」


 まさかのグラス粉砕。そしてまさかの採用。どうやら私とイナリは『特殊例』だったらしい。


 *✻*


「…申し訳ございません。まさか戦う意思が無いのに攻撃が出るなんて…予想外でした」

「いや、こちらこそすみません!」


 幸いイナリも怪我はなく、無事にガラスは片付けられた。


「…よっぽど、素質があるのでしょうか」

「へ?」

「いえ、こちらの話です」


 社長さんの声は小さくて、うまく聞き取れなかった。


「では改めて。七宮相談所代表の、七宮ななみや七海ななみと言います。冗談みたいな名前ですが、本名です」

「ナナミヤナナミ…!?」

「はい。…その、あまり下の名前では呼ばないで頂きたいです」


 確かに冗談みたいな名前…。


「えーと、言いましたっけ?ぼくは気軽に心太って読んで欲しいです!あと今日いるのは塩子さんとひょっとこさんですね」

「しおこ…?」

「私で〜す」


 心太くんと私の会話を聞いて、円谷さんが手を振る。それはそれはキレイな満面の笑みで。


「塩分が大っっ好きでして♡もうみんなにそう呼ばれてるので、そう呼んで下さい」


 こんなに美人なのに……。

 もう突っ込まないことにしたい。


「それで、『ひょっとこさん』ってのは…?」


 すると、螺旋階段の上から顔を覗かせた人がいた。


「ひえ…!?」


 けど、その顔は、人間じゃなくて。


 ひょっとこのお面だった。そしてスケッチブックを取り出す。なにあれ怖い!


 ペラッ

『床山 日和』

 ペラッ

『生憎お前たちみたいな面白みのない地味ブスと生意気チビガキと話すことは無い』

 ペラッ

『ということで、話しかけるな。面倒だ』


「い、いや、待って!」


 ペラッ

『待たない。うるさい。死ね』


「ひ…酷い!」


 ペラッ

『整形して出直せバーーーカ』


そしてまた顔を引っ込めてしまった。

 …………会話が、ページをめくるだけで成り立った。私が言ったことに、返事を用意していた…?

 今の内容をすでにあらかじめ書いていたと思うと怖すぎる。


「…すみません。あとでよく言っておきます」

「………あの人は…?」


 突然すぎる暴言に、怒る気も起こらない。


床山とこやま日和ひよりさんです。口は…まあとても悪いですが。頭のいい、優しい人です」

「あれが…!?」

「はい」


 優しいとは。もういい、突っ込まない。


「…?社長さんと…その、ひょっとこさんは、『奏者プレイヤー』じゃないんですか?」

「ああ、自分は『指揮者コンダクター』です。まあその話はおいおいして行きますので」

「こんだくたー…」


 また耳慣れない言葉が。八割がホルンで出来てる私の脳みそではそろそろ処理できない。


「あすか、帰ろう」


 そう言ってイナリが私のパーカーの裾を引っ張った。

 わーーー上目遣い!小さなおてて!

 確かに、割れた窓から見える空はもう紫色になっていた。


「……そうだね。えっと、次はいつ来ればいいですか?」

「良ければ明日、都合がつく時間に来てくださるとありがたいです」

「わかりました、それじゃ、失礼します」

「はい、お気をつけて」

「さようなら〜」


 こうして、私たちは七宮相談所を後にした。


 *✻*


 眠い。無性むしょーに、というか異常に眠い。はーー玄関のフローリングがほっぺたに当たって、ひんやりして気持ちいいーー


「おーい、あーすーか、メシは?」

「…カップラーメンじゃダメですか?」

「はぁん?」

「そこをなんとか…3分で出来るから…」

「しょーがねえなぁ」

「あざます………」


 外へ出て気づいたこと。


 かわいいかわいいこのイナリくんは、私の前でだけ、この上なく横柄だ。

 きっとツンデレなのだ。内弁慶なのだ。そういうことにしておこ…あー眠い。ね む ぃ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る