刹那の白夢中を掴む
やっぱり今日も、はらはらと涙をながして目を開けた。
降りしきる梨の花。その中で、幸せな時間を過ごしたこと。
「・・・覚えているわ。あなたの、全て」
針はとっくに闇の方に振り切れて、反対側の世界を歩く孤独な人。
本当は、ずっと前はまともだった人。
「ごめんね、私のせいなの。・・・でも、全然悪いことをしたって思ってない」
暗闇で生きる嘘と血と孤独の王様。
あなたに近づける、黄昏時が好きだった。
日の沈む黄金色の禁苑。
その隣でなら、永遠のいのちを生きてもいいと思ったのも確か。
瞬きをすると、また一粒涙が落ちた。
それは、隠しきれない罪の証。
▼
鈍く、心臓が痛みを訴えた。
「………?」
初めての痛みに、彼はコトリと首を傾げた。
『………傷ついているのね、貴方の心。ずっと、そうだったから…』
耳の奥で、ぽつりと零された声が弾けた。
そう、彼女は言ったのだ。
その傷はずっと前に自分が付けたのだと。
彼女の為に付けたもので、それはただの独りよがりで。
だから、ごめんねと謝った。
それは傷つけたことでなく、それを全然悪いと思ってないことについてだったけど。
そう、それで自分は、確か____。
その彼女の浅ましささら、まるごと愛していたのだった。
まるで、まるきし貴方を愛しているわ、と彼女の口癖が移ったかのよう。
そんな事まで思い出して、血みどろ皇帝はクツリと笑って____そしてやっぱり首を傾げた。
だってそれは、いつの頃の話?
よかった気分が、急激に黒で塗りつぶされていった。
不快げに、フンと鼻を鳴らした。
………もっと気分が悪くなった。
窓からはらりと舞い込んだ白い花弁を、彼は握りつぶした。
『でも、世界の反対側に落っこちてきてくれたの。すごく嬉しかった。……つい、笑っちゃうくらいに』
また、耳の奥で声が弾けた。
同時に、ほんの数日前に目にした無垢な瞳がそこに滲んで。
ぱっと消えた。
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