刹那の白夢中を掴む

やっぱり今日も、はらはらと涙をながして目を開けた。

降りしきる梨の花。その中で、幸せな時間を過ごしたこと。

「・・・覚えているわ。あなたの、全て」

針はとっくに闇の方に振り切れて、反対側の世界を歩く孤独な人。

本当は、ずっと前はまともだった人。

「ごめんね、私のせいなの。・・・でも、全然悪いことをしたって思ってない」

暗闇で生きる嘘と血と孤独の王様。

あなたに近づける、黄昏時が好きだった。

日の沈む黄金色の禁苑。

その隣でなら、永遠のいのちを生きてもいいと思ったのも確か。

瞬きをすると、また一粒涙が落ちた。



それは、隠しきれない罪の証。





鈍く、心臓が痛みを訴えた。

「………?」

初めての痛みに、彼はコトリと首を傾げた。

『………傷ついているのね、貴方の心。ずっと、そうだったから…』


耳の奥で、ぽつりと零された声が弾けた。


そう、彼女は言ったのだ。


その傷はずっと前に自分が付けたのだと。

彼女の為に付けたもので、それはただの独りよがりで。


だから、ごめんねと謝った。


それは傷つけたことでなく、それを全然悪いと思ってないことについてだったけど。


そう、それで自分は、確か____。


その彼女の浅ましささら、まるごと愛していたのだった。

まるで、まるきし貴方を愛しているわ、と彼女の口癖が移ったかのよう。



そんな事まで思い出して、血みどろ皇帝はクツリと笑って____そしてやっぱり首を傾げた。

だってそれは、いつの頃の話?

よかった気分が、急激に黒で塗りつぶされていった。

不快げに、フンと鼻を鳴らした。

………もっと気分が悪くなった。


窓からはらりと舞い込んだ白い花弁を、彼は握りつぶした。


『でも、世界の反対側に落っこちてきてくれたの。すごく嬉しかった。……つい、笑っちゃうくらいに』


また、耳の奥で声が弾けた。


同時に、ほんの数日前に目にした無垢な瞳がそこに滲んで。





ぱっと消えた。





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