恋に憐、愛に哀

後から後からはらはらと白の花弁が舞う。

それに惹かれるように、花弁を辿っていく。

やがて一本の樹の下に佇む、一人の少女を見つけた。

降りしきる花と同じくらい白い面。

悲しみに満たされた、儚げな瞳。


はらり、とまた花弁が舞う。

気づいていた、これが夢だということ。

それは、決して手に入らぬ幻。

それでも自分は、手を伸ばす。

「・・・帰るのか?」

永遠に答えの帰らぬ問いとともに。

やはり少女は、憂いいっぱいの表情で微笑んだ。

それが何を意味するのかは、さっぱりわからない。





夢を見る。

毎日、毎日同じ夢を。

朝目を覚ました時、頬が悲しみに濡れているのさえ同じ。

「寂しいのだわ・・・」

言葉にしたらしっくりときた。

そう、寂しいのだ。愛するあの人がそばにいないからから。

____でも、誰だったかしら?

梨花は、呆然と瞬いた。次の瞬間には、その問いさえも忘れてしまうはずだった。

窓からひらりと舞い込む、その花びらがなければ。

『梨の花か。言ったっけ?僕は果物の中で梨が一番好きでね』

そんな嘘だらけの言葉が、耳の奥で木霊した。

そのあとの続きも。

『嘘だよ。全然好きじゃない。でも、悪くないな。君がいるからね・・・』

その嘘丸ごとを愛した、私の大切な人。

はらはらと散る、花の下で出逢った人。

「あなたは今、どこにいるのかしら。・・・きっと私のことなんか、覚えていないわね」

ゆっくりと、寝台から体を起こす。

行かなければいけなかった。花が全て散ってしまう前に。

世界で一番愛した、彼の元に。
















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