落日の箱庭

八月文庫

それは、昔々のこと

それは、昔々のこと。

天上から、一人のお姫様が落っこちてきた話。


「・・・ずいぶん、間抜けなお姫様だな」

バカにしたように、一人の少年が鼻を鳴らした。

「君だって大概変わらぬバカ殿だよ」

そう言ってパコッと少年の頭を叩いたのは、そう年の変わらぬ少女だった。

「だってそうだろ。普通、お姫様がすってんころりん落ちるかよ。山のように従者がついてるはずだぜ」

確かに、と少女は頷いてしまった。彼の言うことにも一理ある、かもしれない。

「それか、だな。そうすりゃ、辻褄も合うだろ。どっちにしても間抜けなのは、変わりねーけど」

子供向けのおとぎ話にまで、話の整合性を求めるのか。

少女はちょっと変な顔をして、それから笑った。

「・・・だね」

「で?」

「・・・は?」

「それで、最後お姫様はどうなるんだよ」

「帰るんだよ、彼女の国にね。地上のことを、綺麗さっぱり忘れてさ」

「ふーん。引き止めるやつとか、いなかったのかよ」

「いたさ。けど、敵わなかったんだよ。・・・所詮、人の力じゃね」

今度は、ちょっと少年の方が変な顔になった。

「じゃ、何の力なら敵うわけ?」

「さあ?・・・でも、お姫様はある男との間に子供をもうけたらしいよ。それが、悲劇の始まりさ」

少年の顔つきがガラリと変わった。

「永遠の命。楽園への道しるべ」

「・・・君も、ほしい?」

「んなもん、いるか」

少年は即答して、少女の腕をとった。

その華奢な腕に嵌る鋼の鎖。

「必ずお前を自由にしてやる。だから待ってろ。月姫」

そうして少年はくるりと背を向けた。

だから、彼は気付かなかった。

少女が、悲痛に満ちた顔をしていること。

「いらないよ、自由なんて。君のそばにいれるなら」

その少女の願いも。





巡り巡って、悲劇は続いていることさえも。















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