第六走 旅は道連れ世は情け

 その年の夏休みは無職だったので長期里帰りが出来ました。楽しかった夏休みも終わり、子供達は学校に行き始め、私は何もやる気の起こらないまま就職活動をぼちぼちと始めました。


 失業中で専業主婦の私は、思いきって地元紙で会員を募集していた『適度に歩カン会走ラン会』(以下走ラン会)に入会しました。先日私とジローが参加した大会を主催している地元のジョギングクラブです。


 走ラン会は大人会員百名ほど、大人の部は四組に分かれています。歩き組と走り組三組です。練習は月曜日と水曜日の夕方週二回、仕事をしていると大変かもしれませんが、職安にお世話になっている今ならちゃんと週二回参加出来そうでした。


 とりあえず最初の練習に参加してみました。ただ走るだけが長距離走の練習ではないということに目から鱗でした。


 まず準備運動がてらゆっくりと1キロちょっと走ります。その後準備運動の一環でドリルと呼ばれる、数十メートルの距離腕を回しながら、膝を上げながら、膝を曲げないでとか、横向きで走ったりします。そして練習本番も、ただ長々と走るのではありません。何と言いますか、ここで練習内容を細かく挙げても面白くないでしょうから、一言で言うと短時間でメリハリをきかせて走るのです。


 走った後は筋トレとストレッチです。私はこの筋トレが最初苦手でした。腕立てや腹筋をやらされるわけです。腕の筋肉なんて鍛えなくても走るのには関係ないでしょ! と思いましたとも。それでも私も、体全体をしっかり鍛えておかないといけないということが少しずつ分かってきました。


 苦手な筋トレも少しずつ頑張りました。毎回の練習はとても楽しみでした。人と一緒に走るのもますますやる気が湧くし、長時間ゆっくりと走るのなら一人でも出来るのですが、例えば400メートル速く走って三分休憩というのを繰り返すのはなかなか個人では出来ません。


 筋トレも、コーチと仲間がいると出来ます。家で一人腕立て伏せ、腹筋というのは絶対に私は続けられません。年が終わる前、12月には再就職し再びフルタイムで働くようになった私でしたが、週一回は出来る限り練習に行っていました。


 私も入会してから見知った顔も増え、友人も少しずつ出来ました。最初に声を掛けてくれて仲良くなったのはナホコさんでした。そのうち週末に二人で走るようにもなりました。


 彼女は菜食主義者で食べるものにも割に気を遣っています。よく豆を食べるナホコさんですが、私が隣で走っているとよくガスを出すことがあるのですね。あるマラソン大会で沿道の応援メッセージで笑ったのは『今オナラしましたね。大丈夫、数センチ前に進めましたよ』とかいうものでした。


 なるほど、後ろを走っている人は少々匂うかもしれませんが、前進力の足しになっているのか、と妙に感心しました。いや待てよ、じゃあ走りながら時々ゲップが出てしまう私はブレーキ踏んでいるのと同じ効果なのか、ガーン! でも出るものはしょうがないし……


 とにかくナホコさんとはその冬から次の夏にかけてよく二人で走りに出かけ、一緒に初ハーフマラソンを完走しました。2014年9月のことでした。しかし、その後彼女は車で一時間程のところに引っ越してしまい、走ラン会にも来られなくなりました。


 走ラン会のようなジョギングクラブを引っ越し先でも探していたナホコさんですが、結局は見つからなかったようでした。クラブは二つくらいあったらしいのですが、レベルが高すぎてついていけないとのことでした。


 その点、走ラン会は初心者から上級者まで誰でも入れて会費もお手頃で地元に根付いた活動をしている良いクラブなのです。私はただ、家の近くだから他に比較もせず、何も知らずに即入会したのですが運が良かったとしか言いようがありません。


 ナホコさんに頻繁に会えなくなったのはとても寂しかった私です。しかし彼女とは引っ越し後もお互い近くに用事があった時などに時間を作っては時々会っています。引っ越し先のお家に休みの時に泊まらせてもらったこともあり、今でもいい友人です。

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