第五走 生兵法は大怪我のもと

 この回では主に怪我や安全のことについて語ろうと思います。


 10キロ走の後、私は右足首を痛めてしまいました。多分、最後の2キロをこれはまだまだいけると思ってガンガン走ったのが良くなかったのでしょう。靴も合っていなかったのかもしれません。


 それに私の足と体自体、10キロの距離を走る準備が完全に出来ていなかったとも考えられます。何の知識もない素人が一人、気の赴くままに走っていたのです、無理もありません。


 走り始めて早四か月、既に走ることが生活の一部として定着していた私にとって、走れないことは非常につらいことでした。走りたいのに走れない、少し治りかけたからまた走り始めて再び痛めてしまう、の悪循環に陥ります。


 ただのお気楽オバチャン走者の私でさえそうなのです。プロアマ問わずスポーツ選手も故障だ怪我だ、とよく聞きますが、どんなにか辛く悔しく重圧がのしかかることでしょう。


 今なら自転車や水泳、筋トレという他のことも色々している私は走れなくても他のトレーニングで気も紛れます。その当時は投資したのは靴一足、好きなように走っていただけでしたので、足首を休ませている間はただ休養でした。


 以前ジローを妊娠中から慢性の腰痛に悩まされていた私は整体や整骨に時々行っていました。今回も足首の怪我をなんとかしたくて整骨とはりに何回か行きました。しかし、足首周りに鍼を何本も刺されてもどうも良くなったような気がしません。その後も何回か同じ治療院に行ってみました。


 そこの治療はギックリ腰には良く効くのですが、走って故障した足首や膝、股関節にはあまり効果が見られません。それに私は予防注射などの針も鍼も苦手です。


 実は注射や点滴薬を扱っている仕事に携わっておりまして、毎日注射針は嫌と言うほど見ているし、実際ブスブス突き刺しています。私が刺すのは患者さんではなくて、薬の瓶や点滴の袋にですが……自分が刺されるのは怖いのです。現在の上司にも矛盾していないかと指摘されました。でもどうしても駄目なのです。今ではその治療院には腰痛のつらさが針恐怖を越える時にしか行けません。


 その頃から私は少しずつですが、靴以外にも投資をするようになりました。長距離走についての本も一冊購入しました。10キロ走からフルマラソンの練習メニュー、筋トレ、柔軟体操、走っていて起こりやすい怪我の種類やらその時に出来る筋トレなど、中身は中々充実しています。怪我の方は二、三か月の間良くなったりまた痛めたりを繰り返していましたが、それでも少しずつ良くなりました。


 私が走り始めるまだずっと前、イサオさんという知り合いが居ました。数年前にお世話になっていただけで、もう連絡は取り合っていなかったのです。私は当時から彼がベテランランナーであることを知っていました。


 彼とは仕事の分野が少々近かったこともあり、ある日ふと用事を思い立ってメールを出しました。実は私も最近ランナーになりましたと近況も知らせたところ、それからイサオさんと時々一緒に走りに行く付き合いが始まりました。


 イサオさんは私よりだいぶ年上でもう三十年以上も走っている経験豊富な人です。改めてラン友として付き合ってみると、色々と教わることが多かったです。


 彼は長時間一人で走ることも多く、それに糖尿病持ちなので、常に連絡先等を記した腕輪をつけています。私もそんな腕輪か何かを常に身に付けることを強く勧められました。まさか自分が走っている途中に倒れて気を失う、なんてないだろうと過信してはいけません。早速作りました。迷子札のようなものです。


 私の場合は名前、電話番号、アレルギー、血液型等を入れました。既往症などない私は一行余ったので座右の銘も一言刻みました。作り直す必要がある時にはこのエッセイのリンクも入れましょうか……長すぎて場所がないですね。


 イサオさんには他にも山道の走り方、狭い車道の割と安全な走り方なども教わりました。冬場にはクロスカントリースキーやカンジキを一緒にしたこともあります。


 当時まだ市場に出たばかりだった新しい靴メーカーの靴も彼のお薦めで試してみました。今では長距離ではそのメーカーの決まったモデルの靴しか履いていません。山道用にはこのメーカー、冬場のジョギングにはこのメーカーと一度決まると、私はもう浮気をしようという気にはなりません。私って結構一途のなのですよ。あっ、そんなことは聞いてないし別に興味もないですね。失礼いたしました。


 さて、イサオさんの話に戻ります。ビール好きな彼はビールの美味しい店なども教えてくれました。走った後の一杯は最高です。特に大会前にしばらく禁酒をしていた場合などはたまりません。


 彼には一方的に色々教えてもらってばかりで私からは何もお返しできてないじゃないか、とお思いでしょう。確かにそうなのです。彼には他にもお古の給水バッグやら、帽子やら、クロスカントリースキーのビデオやら、もらったり貸してもらったりこちらがお世話になってばかりなのです。


 彼が面倒見のいい性格なのと、経験値の差で、いつもしてもらってばかりです。現実社会でもカクヨム上でも『やられたらやり返す、時々は倍返しよ』主義の私ですが、私の方からイサオさんに何かするとしたら一緒に出掛ける時にちょっとした差し入れをするくらいなのです。



***次回予告***

ヨカコは地元のジョギングクラブに入会します。

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