MIXとリセットーー神様の説明
「今君の押したボタンで、リセットが一つ起こってしまったのじゃ」
「え?」
「最近私の力の調子が悪くてな」
聞くと、この神様は世界の色々なモノの調整をしているらしい。
しかし、その力が最近弱っていて、世界の一部が狂っているのだという。
まだ、この世界への影響は些細なもので「ボタンの異常」くらいだと説明を受けた。
神様は今の状況を「MIX」と仮に呼んでいるらしい。ボタンが、押したものと別の効果が伴う。
『ボタン』とそれを押した『結果』がMIXしてしまっているのだそうだ。
どこかで聞いた話だ。
――つまり、今朝から私の身に降りかかるボタンの謎は神様の力のせいだったらしい。
「だいたいはわかったけど――わかったんですけど、今ので起こった『リセット』ってなんですか?」
リモコンの電源ボタンを押したことだ。
「それが、じゃな」
神様は言葉に詰まる。そんなに言いにくいことなのだろうか。
「……え」
私は、その後重たい口を開いた神様の説明に言葉が出なかった。
神様は「君の大切な人の記憶が、一部リセットされた」と言った。
本来、記憶リセットのボタンは神だけが押せる特殊なボタン。
神様だけが起こせるはずの、リッセトと言う不思議な現象。
それが、力が弱っているというこの状況下で、MIXの影響を受けたのだ。
「だ、誰の……?」
記憶がリセットされたのか、そんな言葉の先は恐ろしくて、とても口に出来なかった。
最悪の場合、この後帰って来た母親が私の事を忘れてる……とか?
「君も、もしかしたら望んでいたのかも知れん」
「は?」
神様は私の想像とは全然違う事を言ってくる。
「記憶の持ち主は――君の先輩、放送部の元部長さんじゃよ」
「・・・」
「無くした記憶は、いや違うな。無くしたんじゃない。リセットされてしまったのは……」
――君に告白された記憶。
あの後、ただいまーと帰って来た母親の声を合図に神様は一旦姿を消した。
その夜、私は自分の部屋のベッドで早めに布団に入った。
――神様は本当に謝りに来ただけらしい。
神様曰く、私と長時間関わることが出来ないらしい。
まず、神様と人間と言う立場上。それから、力が弱っている神様が私の近くにいることで、MIXの影響が私にこれ以上降りかかる可能性を高くしないため。
神様は、私が念じればまた姿を現してくれると言っていた。
それに、あの神様は希望も残してくれた。
リセットされてしまった記憶は、二度と戻らないわけじゃない。条件さえ満たせば、必ず記憶は戻ると教えられた。
『君が、彼のその記憶を本当に戻そうと思うのなら』
そうを告げた神様の言葉が、頭から離れない。
それに、こんなことも言っていた。
『君も、もしかしたら望んでいたのかも知れん』
人の望みは、MIXに反映されるとか、されないとか。
――なんだ、それ。
「私はそんなこと望んでなんか……」
――告白するタイミングを間違えたんじゃないか。
ハッとした。
告白をしていなかったなら、こんなに切なくないのに。
後悔とも呼べないくらいの、小さなことを思うこともあるけれど……。
自分の想い《ことば》がリフレインする。
「私は……」
――望んでた?
私が本当に先輩の記憶を戻そうと思えば、先輩の記憶は元に戻る。
じゃあ。
――戻そうと、思わなかったら?
その思いが、足りなかったら?
先輩の記憶が戻らないのは――先輩が忘れてしまったのは、私のせい?
悪い想像ばかりが頭をよぎって、当然のようにその夜はあまり眠れなかった。
次の日。
私は寝不足のまま学校に行った。
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