第2話 一人と一人、二人で過ごすあたたかい時間

 こうして、お狐様と少女は出会い、当然のように二人は仲良くなった。


 少女の名前は真帆。


 つい最近、街から一人、祖父母の家へ越してきたのだという。


 両親と離れて寂しかろう、とお狐様が問うと、真帆はぎゅっと口を結んでとても悲しそうな顔をした。


 そして、抱えた膝に顔を隠すようにうずめて言ったのだ。


 人とは違うものが見えてしまう自分は、両親に嫌われている。だから、両親と一緒にいてはいけないのだ、と。



 その言葉に、お狐様は少女が寂しそうで悲しそうな理由を見つけた気がした。


 親とは、子供を愛するものだ。嫌われてなど、いるものか、と言ってやりたいと思った。


 が、言ったところでそれがなんになろう。


 真帆が欲しいのは、他人のかけるそんな言葉ではなく、両親からの愛情に満ちた言葉だけなのだから。



 膝を抱える少女の隣にちょこんと座り、お狐様は真帆の頭をよしよしと撫でてやる。


 すると、少女は抱える場所を膝からお狐様の胴へと移し、ぎゅうっとしがみついてきた。すがるように、甘えるように。



 幼い少女の、温かなぬくもりを感じながら、お狐様は思う。


 いつか、自分が必要とされなくなる日まで、この少女と一緒にいてやろう、と。


 今は特別な彼女の瞳も、やがて大人になるにつれ周囲と同じになっていくことだろう。そうしていつの日か、幼い頃に体験した不思議な事も、人とは違う友達の事も忘れていく。


 だが、それでいいのだ。寂しくはあるが、それが人と人ならざるものの関係性なのだから。


 でも、その日までは。




 「……わしが、お主と一緒にいてやろうの」




 すがり付いてくる小さな体をぎゅっと抱きしめて、お狐様は小さく小さく呟いた。






 その日から、二人の束の間の蜜月は始まった。


 春は共に山野を駆け回り、夏は川で水遊びをし、秋は美しく色づいた葉を集めて歩いた。


 しんしんと雪の積もる寒い冬も、真帆は毎日のように社を訪ねた。


 風邪を引くから訪ねて来るなというお狐様の言葉も聞かずに。


 ほっぺを真っ赤にして駆けて来る真帆を、お狐様は呆れたように、だがどこか嬉しそうに毎日出迎え、凍えた体を己の尻尾で包んでやるのだった。



 でも、そうしてやってもやはり寒いものは寒く、真帆は時折ひどい風邪をひいた。


 何日も顔を出さない真帆を心配してこっそり家を訪ねると、目に飛び込んで来るのは布団の中でふぅふぅと熱にうなされる真っ赤な顔。


 すっかりぬるくなったおでこのタオルをしぼって乗せなおしてやりながら、




 「……だから、冬は来るのをやめよと、申したじゃろうに」




 と心配そうに真帆の顔を覗き込むお狐様。


 そんなお狐様に気付いた真帆は嬉しそうな顔をし、




 「だって、コン様に会えないと寂しいもの」




 微笑んでそんな可愛らしい事を言うのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る