第31話 対決 ④

 そこには俺のよく知っている人物が、スーツの上に白衣を着て立っていた。

 身長が高く、細身ではあるがしっかりした体格で、髪は肩位まで伸び、髪の毛は無造作に思い思いの方向に跳ねている。目は細めで、いつも笑っているかのようなカーブを描いている。


「お、親父!」

「久しぶりだな。我が息子よ!」


 そう。そこに立っていたのは俺の親父だった。

 親父は両手を前の方に広げて、俺を迎えるような芝居がかった仕草をする。

 俺はその仕草にイラッとしながら尋ねた。


「挨拶はいいから質問に答えろ! 何でお前がこんな所にいるんだ?」

「つれないなぁ、徹は、せっかく感動の親子の再会シーンを演出したのに」

「そんなもの演出しなくていい! それより今の、この状況を理解しているのか?」


 俺の言葉に親父は口元を緩ませてから、岡田生徒会長に向かって、笑っているような細い目を少し開いた。


「岡田くん、生徒会長ともあろう者が人や物を手荒に扱うものじゃないよ」

「どうやら、そこの一年生の父親らしいが、その様な奴に説教される覚えは無い!」


 岡田生徒会長は、親父の話を意に介した様子も無く、ピシリと言い放つ。

 それを聞いた親父は困った様な顔をして、頭を掻きながら言った。


「それがあるんだよなぁ、三つも」


 親父は岡田生徒会長に向かって三本の指を立てて話を続けた。


「先ず、私は今学期からこの学園の客員講師をする事になった。これが一つ目。次に、前任の鈴木先生が生徒会の顧問を、たった今お辞めになって、その後任を私が引き継いだ事。これが二つ目」

「くっ!」


 岡田生徒会長は口惜しそうに唇を噛んでいる。


「岡田くん、そろそろ自分の過ちを認めてくれないかなぁ」

「わ、私は何もやってはいない!」

「そうかぁ……、それでは三つ目、前任の鈴木先生がお辞めになった理由なんだが、今、岡田くんが持っているスマホは、実は通話状態になっていて私のスマホとつながっているんだ。当然先程からの話は、全て聞かせて貰ったし、この事に関して鈴木先生も関与していたことも分かった。それでも不正を認めてくれないかなぁ?」


 親父の三つ目の理由、鈴木先生がミスコンの賭けに関与していたことは初耳だったので、俺も驚いたが岡田生徒会長にはこのことが決定的なダメージになったらしく膝から崩れ落ちた。

 親父はゆっくりと岡田生徒会長に歩み寄り、肩に手を置いて凛先輩のスマホを受け取り


「君はまだ若いんだ。鈴木先生とは違ってまだまだ将来もある。今回の事は軽微な罪として処理させて貰う。ただ、生徒会長の職はこのまま続けてもらう訳にはいかないが」


 と伝えた。


「やはり、羽多野くんが破壊者となって私を追い詰めましたか」


 岡田生徒会長は、その言葉を小さく呟いて再び下を向いた。


「さてと、後は他の先生方にお任せするかな」


 親父はそう言うと、生徒会室の外に待たせていた二人の先生を室内に呼び入れ、岡田生徒会長を職員室に連れて行かせた。

 凛先輩にスマホを返した親父は、申し訳なさそうな顔をしながら言った。


「嫌な役割を演じさせてすまなかった」

「いえ、お父さまが徹なら気がつくはずだって言ってらしたし、私自身も徹くんを信頼してましたから」


 凛先輩は晴れやかな笑顔で答えた。


「ちっ! 全ては親父の思惑通りってことか…………」

「えっ? 何がどうなってるんだ?」


 俺の背後にいる昌、今日子、真美ちゃん、徳井が目の前で起こった出来事についていけてない様子で困惑していた。


「全部、こいつが仕組んだんだよ」


 俺は苦虫を噛み潰した様な顔で説明を始めた。


「自分が客員講師になった段階で大まかな策は考えていたんだろ?」

「さすが我が息子! ただ俺が客員講師になったのは岡田くんのことだけではなくて、学園全体にはびこる問題を解決して欲しいという事で引き受けたのだよ」

「どういうことなの? 徹?」


 今日子が頭の上にいっぱいの ? マークを浮かばせた様子で聞いてきた。


「つまりは凛先輩を俺の家に入らせたのも、生徒会室で俺に『生徒会長岡田の不正を暴け』というパソコンの文字を見せたのも、全てこいつの仕業だったってことさ」


 そう言った俺はふと、ある疑念が頭をよぎった。


「親父! まさか、香織さん(凛先輩のお母さん)との再婚のこともお芝居だって言うんじゃないだろうな!」

「さすがにそれは俺でも出来ないな。香織さんとはいっしょに暮らしているし、ラブラブな日々を送っているよ」

「言ってろ!」


 親父のニヤけた顔を横目に、うんざりしながら俺は話を続けた。

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