第30話 対決 ③

 潔く負けを認めるか…………。

 岡田生徒会長に気づかれない様に一瞬、口元を緩ませるが、再び覇気の無い雰囲気を装い振り返り、岡田生徒会長に話しかける。


「負けは認めますが、唯一、わからないことがあるんです」

「なんです?」


 すでに勝敗は決したものと、上機嫌な様子で岡田生徒会長は話を返してきた。


「何故、今日子がミスコンを辞退したのに、岡田生徒会長は負債を負わないんですか?」


 俺の言葉を、岡田生徒会長は鼻で笑い飛ばす。


「あはははは…………、そのことか。君たちは馬鹿か? 私が付帯条件無しに賭けなんて行うと思うか?」

「付帯条件?」


 俺は聞き慣れない言葉に戸惑いを覚えたが、すかさず後方から岡田生徒会長に気づかれないよう、耳元で徳井が囁いてくれた。


「ある物事を主として、それに伴う形で存在している条件のことですね。僕がモデルの仕事の契約をする時によく出てきます。例えば、僕があるブランドの服のモデルをやるとしたら、付帯条件としてブランドのイメージを低下させる様な行動を謹むこと。他社の製品を着用しないこと。などが付いてきますね」


 俺は説明してくれた徳井に感謝しつつ岡田生徒会長に聞いた。


「その条件とは?」


 岡田生徒会長は俺を見下したように冷笑しながら言った。


「出場者の誰かが棄権した、もしくは何らかの妨害を受けた場合、賭けは成立しないものとみなす」

「そうだったんですか。それで今日子が出場を辞退しても、賭け自体は成立しなくなるが岡田生徒会長の懐まで痛むことは無いと………………」


 俺はそれまでの覇気の無い負け犬の様な演技をやめ、毅然とした強い表情で岡田生徒会長に続けて言った。


「……でも、少々調子に乗って喋りすぎましたね! ご自身で自分の不正を白状してますよ」


 俺の言葉に岡田生徒会長は一瞬表情を固くしたが、すぐに侮蔑した表情に戻り薄ら笑いを浮かべながら言った。


「構いませんよ。君たちが何を言おうが何の証拠も無いですし、私が君たちの発言など握り潰しますので」


 岡田生徒会長の開き直った言葉に昌たちが唖然としている中、俺はある人の言葉を待っていた。


 そしてしばらく間をおいて、その待っていた人が口を開いた。


「それでは私の発言だったらどうかしら?」


 それまで伏せ目がちに顔を下げていた凛先輩が、いつもの爽やかな笑顔で岡田生徒会長を見据えている。


「な、何を言い出すんだ! 白石君、君は生徒会副会長の立場じゃないか!」


 岡田生徒会長はあからさまに狼狽して、隣ですっかりいつもの雰囲気に戻っている凛先輩に声をあげた。


「そうね。私は生徒会副会長だけど、彼らの友達でもあるの。信頼している友人を裏切ることは出来ないわ」

「しかし! 君が今、私が話した事を発言しても何も証拠など無いではないか!?」

「そうかしら?」


 凛先輩は涼しげな顔で、胸のポケットからスマホを取り出した。


「これには今までの会話の全てが録音されているわ。それでも会長はまだ証拠が無いとおっしゃるのかしら?」

「くっ………………、そ、それを渡せ!」


 岡田生徒会長は凛先輩に襲いかかり、手にしているスマホを無理やり奪い取る。その勢いで凛先輩が突き飛ばされ、床に投げ出されるところを俺がかろうじて受け止めた。


「何をするんだ!」


 俺はありったけの声を岡田生徒会長にぶつけた。


「これが無ければ、証拠など何処にもない!」


 岡田生徒会長は手にしている、凛先輩のスマホを床に叩きつけようと手を振り上げたとき、生徒会室のドアが大きな音を立てて開かれた。


「はい。はい。そこまで、そこまで」


 緊迫した空気の生徒会室に似つかわしく無い、どこか気の抜けたような声が響き渡った。


「誰だお前は!」


 岡田生徒会長はスマホを持った手をそのままに、声がした生徒会室の入り口の方に目をやった。

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