第29話 対決 ②
「岡田生徒会長。申し訳ありません。私がいたらないせいで、会長にご迷惑をおかけして」
そう言いながら、凛先輩は俺と昌の横を通って、岡田生徒会長の隣に立ち、俺たちと向き合う。
「まったくですね。白石くん。君がしっかり彼等を監視していないから、この様な面倒な事になるのですよ」
白石先輩に裏切られた!
信じられない出来事に昌、今日子、真美ちゃん、徳井は驚いて言葉も無く、ただ茫然と立ち尽くし二人の会話を聞いている。
「しかし、白石くんが彼らの中に入ってくれたおかげで、木崎君の情報収集能力を見ることができましたし、面白い娘も見つけることができたので良しとしましょう」
「ありがとうございます」
岡田生徒会長の言葉に凛先輩は頭を下げた。
「さて、その面白い娘である、そこの島田今日子くん。棄権は取り消しませんか? 私も驚いたのですが確かに君は美しい、君ならミスコンで十二分に白石くんと争えると思うがどうですか? もちろん生徒会役員のポストも用意してありますよ」
今日子は岡田生徒会長の提案に、表情をこわばらせながらも気丈に答える。
「結構です! 遠慮させて頂きます!」
「ふふふ…………。面白いですね、君たちは」
岡田生徒会長は心底楽しそうに笑いだした。
そんな岡田生徒会長の姿に、業を煮やした昌が凛先輩に向かって怒気を込めて言った。
「白石先輩! あなたは俺たちの仲間じゃなかったんですか!!」
昌にそう言われた凛先輩は返す言葉も無く目を伏せた。代わりに岡田生徒会長がさも当然のように昌に答える。
「何を馬鹿げた事を言ってるんですか君は? 白石くんは生徒会副会長です。何で君たちの仲間になどならなければいけないんですか?」
そのやり取りの間中、凛先輩は悲しげな表情を浮かべ目を伏せている。
そんな辛そうにしている凛先輩を見て、俺は少しの時間だけどいっしょに過ごした日々のことを思い出していた。
料理が得意だと言って出されたカレーを怖々食べたらすごく美味くて、その事を言ってあげると照れながら嬉しそうにしていた凛先輩。
コーヒーのブラックが飲めないのに、大人ぶって飲んでいた凛先輩。
いつも何故か、エロい格好で出迎えてくれる凛先輩。
みんなで家に集まった時、真美ちゃんを可愛がって離さなかった凛先輩。
そして、意見の違いから対立することになった時どうするか聞いた俺に、納得するまでとことんぶつかりあうって言ってくれた凛先輩。
やっぱり!
俺には凛先輩が裏切ったとは思えない!
俺はもう一度凛先輩の顔を見た。
変わらず顔を伏せているのだが、目線は俺に向けられ、何かを訴えかけているように見える。
よく考えろ! 俺!
凛先輩の行動、言葉、何かヒントがあるはずだ!
「もういい加減やめましょう。 あなたたちの負けよ!」
そ、そうか! あの時、凛先輩はあなたたちの負けだと言った。
でも、本当に裏切ったのなら、不正なんて何処にも無いと言えばいいはずだ。
勝ち負けがあるって事は、凛先輩が不正は存在すると言っているようなものではないか。
あの時点では、岡田生徒会長を追い詰めることの出来なかった俺たちの負けだ。
じゃあ、勝つため(岡田生徒会長に不正を認めさせる)にはどうすればいいか?
勝つため……勝つため……勝つ……負ける……。
そうか! そういうことか。
俺は一歩踏み出して、みんなをかばうように岡田生徒会長と向き合った。
「参りました。俺たちの負けです」
俺は落ち着いた静かな声で、自分たちの負けを認めた。
その言葉を聞いた昌たちがどよめきたつ。
「おい! 徹! お前マジで言ってんのか!!」
そう言って、昌が俺ににじり寄ってくる。後ろを見ると、今日子と真美ちゃんと徳井が不安げな顔で俺を見ている。
俺は右手で昌を制して、みんなに柔らかな笑顔で言った。
「まあ、俺たちに手札が無い以上どうにかなるものでもないだろうし、思い切って、負けを認めるってのもありなんじゃないか?」
昌は唇を噛み締めながら、悔しそうに小声で答える。
「徹が言うなら……仕方ない……」
「みんなもそれでいいよね?」
俺の問いに、今日子と真美ちゃんと徳井は納得出来てない面持ちで小さく頷いた。
「そういうことなので、岡田生徒会長には誠に失礼なことを申し上げてすみませんでした。後日、改めてお詫びをしに来ますので、今日のところはこれで失礼させて頂きます」
「潔く負けを認めるとは、りっぱな姿勢ですね。その姿勢に免じて今回のことは公にはせず不問といたしましょう」
岡田生徒会長は笑顔で手を叩きながら、俺たちのことを小馬鹿にしたように告げる。
俺は苦渋の表情を見せながら、一礼して、岡田生徒会長に背を向けた。
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