第28話 対決 ①

 放課後 生徒会室


「それで、話しというのは何ですか?」


 生徒会役員が全て帰った後の生徒会室に岡田生徒会長と俺、昌、今日子、真美ちゃん、徳井、凛先輩が対峙している。

 俺は岡田生徒会長の寒々とした声のトーンに、押されないように声を張って言った。


「岡田生徒会長! 単刀直入にお聞きしますが、今回のミスコンで何らかの不正を行なってませんか!!」


 俺に続いて昌が話す。


「その不正ってのが、どうやらミスコンでの優勝者をめぐっての賭けみたいで、こちらとしてはその賭けに乗った人とも連絡が取れてるんだけど、何か身に覚えはありませんか? 岡田生徒会長?」


 岡田生徒会長は一瞬険しい表情を浮かべたが、すぐにいつもの作り笑みの顔に戻り答えた。


「君たちが何の事を言っているのかは分かりませんが、私はその様な事は一切知りません。その賭けに乗ったとかいう方も、おそらく妄想癖か虚言癖のある人物でしょう」


 やはり岡田生徒会長はシラをきってきたか……でも、これは俺たちの作戦の想定内の範囲である。昌は俺の目を見て頷き、再び岡田生徒会長に向けて語気を強めて言った。


「それでは、岡田生徒会長は不正の事実を認めないのですか?」

「認めるもなにも、不正など元々ないのですから」


 相変わらず、口元に薄笑いを浮かべながら昌を睨めつける。


「そうですか。認めては貰えませんか……では、残念ですがこちらとしても、それなりの手段を取らせていただく形になりますがよろしいでしょうか?」

「それなりの手段とは?」


 昌は今日子の方に振り返り、今日子の意思を確認し、そして岡田生徒会長の方に顔を戻して言った。


「島田今日子の……ミスコン出場を辞退する!」


 その瞬間、生徒会室の空気が変わった。

 今まで笑みを浮かべていた岡田生徒会長の顔から笑みが消え、隠しきれない怒りの感情が見える。

 その怒りの感情が生徒会室全体を覆い、今にも切れそうな糸のようにピンと張り詰めた空気を作り出している。


「辞退だと! それはどういう事だ! 答えろ! 島田今日子!」


 怒りに燃える瞳で、岡田生徒会長は今日子を見下ろす。


「すみません。岡田生徒会長。もともと私はミスコンなんて出るつもりは無かったのです」

「そう。今日子ちゃんはあくまで、俺が考えた作戦の手伝いをして貰っただけさ」


 申し訳なさそうに答える今日子に代わって、昌が岡田生徒会長に答えを突きつける。


「岡田生徒会長! あなたが昨年のミスコンで賭けを行なっていた事は、俺が調べて確信を持っている。そしてそのミスコンでの結果に伴い、多額のお金を手にしていた」


 昌はしっかりと岡田生徒会長を見据え、半歩前に体を進めて話を続けた。


「そうなると当然、昨年と同様にミスコンでの利益を求めて、今年も同じことを行うであろう事は容易に想像がつく」


 岡田生徒会長は怒気をまとってはいるのだが、身じろぎもせずに昌の話を聞いている。


「しかし、そこで問題が発生した。それは昨年の優勝者の白石先輩の存在だ。昨年の優勝者である白石先輩は、強制的に今年のミスコンにも出場しなければならない。果たして昨年あれ程の票を獲得した白石先輩を、破るだけの票を集める事が可能だろうかと」


 これは俺たちがこの作戦を行うにあたって最初につまづいたところである。それと同じ状況が、岡田生徒会長にもあったであろうことは容易に想像出来る。


「そこに目をつけた俺たちは今日子ちゃんにお願いをして、白石先輩に負けないくらいのメイクを施しあなたに近づいたわけさ。あなたは俺たちの思惑にまんまとはまり前回の白石先輩の役を今日子ちゃんに仕立てた」


 昌はニヤリと笑いながら、岡田生徒会長にいっそう近づいていく。


「それで今日の賭けが成立したのを待って、今日子ちゃんを棄権させた訳さ」


 そして昌は岡田生徒会長を指差し自信満々で言い放つ。


「これであなたは賭けに負け、膨大な負債を負うことになる!」

 

 一瞬の静寂が生徒会室を包む。それが一秒だったのか二秒だったのかはわからないが、俺には時間が止まったかのような長い一瞬だった。


 そして生徒会室の張り詰めた空気の糸は、想像だにしていなかった声に切り落とされた!


「あははははははは………………!」


 今まで怒りの表情を見せていた岡田生徒会長が、大声で笑い始めたからだ。


「実に面白いな。君たちは」


 岡田生徒会長はそれまでの怒りの表情が嘘のように消え、本当に楽しくてたまらないって様子で笑いながら続けた。


「私が膨大な負債を負うだって? 有りもしない賭けでどうやったら私が負債を負うことになるのだね?」


 えっ!

 どういう事なんだ?


 本当に岡田生徒会長はミスコンでの賭けを行なっていないって事なのか?


 いや!

 それは無い!


 ちゃんと賭けは成立している。じゃあどうして?


 俺は隣にいる昌の顔を見る。俺と同じく焦りの表情が伺える。それでもなんとかしようと声を出そうとした時だった。

 俺たちの後ろから聞こえた声が、昌の作戦を完全に押しつぶしてしまった。


「もういい加減やめましょう。 あなたたちの負けよ!」


 その声を発したのは凛先輩だった。

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