第27話 仕掛け ④

 その日の夕食は和風メニューだった。とり五目の炊き込みご飯、アサリの味噌汁、カレイの煮付け、肉じゃがとどれもものすごく美味しくて、凛先輩が本当に料理が上手なんだと再認識してしまう。

 そういうプラスのイメージを浮かべると、どうしてもさっきの昌の言葉が脳裏に浮かんでくる。


(白石先輩には気をつけろ!)


「えーと、ちょっと聞いていいかな?」


 夕食が終わって、クマさんの絵が描いてあるマグカップでお茶を飲んでいる凛先輩に話しかけた。


「えっ、何?」

「もしも……、もしもだよ。俺と凛先輩が意見の違いから対立することになったらどうする?」


 凛先輩はお茶を飲む手を止めて、不思議そうな顔で俺を見ながら答えた。


「そうね……、互いに納得出来るまでとことんぶつかり合うかな」

「でも、ぶつかり合っている間ってしんどくない?」

「うん。そうなんだけど、そうしないと分かり合えないじゃない。私と徹君は互いに意思を持っているわけだし、それが常に同一なものとも限らない、ましてや、人の心を力によって強制的に従わせるなんて事は不可能だと思うから。でも、これって、私たちの間だけじゃ無くて親子、兄弟、友達、恋人とかの場合も同じだと思うんだけどね」


 凛先輩の真面目な表情と、気負いのない言葉使いに、俺も心を落ち着かせて考えることができる。


 とことんぶつかり合うか……。

 そうだよな……。

 いくら表面上は納得した顔をしていても、心が納得していないとずっとわだかまりを残したままになって、それが積み重なって、いつか爆発してしまうんだろうな。


「分かったよ! でも、そんな時が来たら俺は凛先輩に容赦無くぶつかっていくから!」


 そんな俺の言葉に、凛先輩はいっそう不思議そうに笑いながら聞いてきた。


「どうしたの? 急にこんな事言うなんて?」

「ううん。なんでもない」


 テーブルの向かい側でしきりに小首を傾げている凛先輩を見ながら俺は思った。

 昌の言った事は合っているかもしれないし、間違っているかもしれない。でも、凛先輩が考えも無しで岡田生徒会長に従うとはとても思えない。もし、凛先輩がそうしているとするなら、しなければならない理由があっての事だろう。

 その時が来るならば、さっき話したみたいに俺は正々堂々と凛先輩にぶつかっていけばいいんだ。



 ミスコンを2日後に控えた昼休み、またしても2、3時間目の休みの間に弁当を食べてしまった昌が、学食で買って来たパンをかじっている時にスマホが鳴った。


「はい! 分かりました。ご協力ありがとうございます!」

「徹! 岡田生徒会長が主催するミスコンの賭けが締め切られたみたいだぞ」


 昌が昨年、岡田生徒会長の策略にはまって大損したした人の中から1番信頼できる人に、もう一度賭けて貰い締め切りの日時を確認していたのだ。


「いよいよですね!」


 家から持ってきたお手製のサンドイッチをほおばりながら徳井は嬉しそうに微笑んだ。

 最近は俺と昌と徳井でお昼をいっしょにすることが多くなった。始めのうちは女子の視線も厳しいものがあったが、それも自然に薄れていき3人でいることにも馴染んできた。


「そうだな。今日の放課後仕掛けるか!」


 昌は意を決したように、紙パックの牛乳を一気に飲み干して言った。


「徹! 白石先輩に連絡たのむ! 放課後、生徒会室に集合だ」

「わかったよ」


  俺は早速スマホで凛先輩にメールを送る。それを見ていた徳井が


「じゃあ、僕は島田さんと長瀬さんに伝えてきます」


 と言って、斜め後ろの席で昼ごはんを食べている今日子と真美ちゃんの所に伝えに行った。

 徳井が席を離れたのを見計らって、昌は小声で俺に聞いてきた。


「白石先輩は大丈夫なのか?」

「うん。昌が言うように味方なのか敵なのかは分からないけど、俺は少しの時間だけどいっしょに過ごしてみて、凛先輩が悪い事を企んでいるようには見えないんだ。だから……だから、信じてみようと思う!」


 真剣に話す俺の顔を見て、昌は笑みを浮かべた。


「徹らしいな。わかった。俺も信じるよ。徹はいつも言ってるもんな! まずは自分が信じることって!」

「ありがとう」


 俺は昌の笑みに、満面の笑顔でこたえた。 

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