第32話 対決 ⑤

「で、ここからが昌の活躍だけど、岡田生徒会長の不正を調べだし。今回のミスコンに、徳井の力を借り、今日子を送り込んで岡田生徒会長のもくろみを壊そうとした」

「でも、失敗した」


 昌は肩を落としてつぶやいた。


「いや、そうでもないぞ。木崎くんの策は失敗ではない。実際に岡田くんをある時点までは追い詰めていた」


 親父は昌に優しく諭している。

 親父の言うように、昌の作戦は岡田生徒会長の賭けを成立しなくした上、付帯条件と言う言葉まで引っ張りだしたわけだからな。


「結果的に失敗に見えるが、あの追い詰められた状況で逆転したという優越感が、岡田くんの心の隙間を作ったと言えるだろう」

「でも、どうして、あの場面で白石先輩は私たちを裏切った演技をしたんです?」


 相変わらずこの場にそぐわない、あま~い声で真美ちゃんが聞いてきた。


「ごめんね! 真美ちゃん!」


 凛先輩は慌てて真美ちゃんに駆け寄りギュッと抱きしめて答える。


「あのときは岡田生徒会長の心の隙間を広げたかったのと、会長の隣で声をしっかりスマホに取りたかったから……本当にごめんね!」


 凛先輩の真美ちゃん好きも大概なものである。

 みんなは苦笑いしながら、凛先輩が真美ちゃんを抱きしめているのを眺めている。


「あー、いいな、僕も羽多野くんにギュッと……」


 徳井が何か恐ろしい事を呟いてるがスルーして。


「それで、どうして徹は白石先輩が演技していると気がついたんだ?」


 昌が不思議そうに聞いてくる。


「それはあのときに凛先輩が言った言葉さ」

「言葉?」

「そう。あのとき凛先輩は "もういい加減やめましょう。あなたたちの負けよ!" って言ったよね」


「うん。覚えている」

「本当に凛先輩が裏切ったのなら "もういい加減やめましょう。不正なんて何処にも無いのよ!" になるはずなんだ、それが敢えて負けっていう言葉を使ったのは……」

「そうか! 不正は有るのだけど、それを証明出来なかった俺たちの負けってことか!」


 昌は感心しながら話を続けた。


「でも、そんな事よく気がついたな?」

「それは…………俺が凛先輩のことを信じていたからだと思う。少しの時間だけど同じ時間を共有して、凛先輩の良い所も悪い所も見れたし、その全てをひっくるめて俺が凛先輩を信じようと思ったから、凛先輩からのメッセージを受け取れたのだと思う」


 俺と昌の話を聞いていた親父が、ニンマリしながら会話に割り込んできた。


「これぞまさに愛だな!」

「はぁ~~~~~~っ?」


 何を言ってるんだこいつは!

 俺がそう思っている隣で、昌が何か焦っている。


「おじさん! ちょっとその発言はマズイっすよ!」

「んー? なんでだ?」


 呑気に応えた親父だったが、昌の後ろから氷のような視線を感じて慌てて言い直す。


「え、えーと、あ、あれだ! 今日子くん、姉弟愛だよ! な? 昌くん!」


 昌は親父に小声で なんで俺に振るんすか! と抗議しつつも


「はい。そ、そう、姉弟愛ですよね」


 と同じく慌てて口を合わせる。

 親父は話題を変えようとひとつ咳払いをしてみんなに言った。


「とりあえず、不正の件は解決したし、岡田くんも、いち生徒に戻って真面目に頑張ってくれることを願っている。君たちに今回はたくさんの迷惑をかけたな。すまなかったと共にありがとうと言いたい」


 親父は俺たちに深々と頭を下げた。


 凛先輩、昌、今日子、真美ちゃん、徳井。

 みんな少し恥ずかしそうにしながら今回の件を解決した自信を持った顔で笑っていた。

 俺はといえば、こんな親父を見た事が無かったので少々面食らっていたが、みんなの笑顔を見てやっと終わったっていう安堵感で満たされてきた。


「でも、今度打ち合わせする時は、やっぱり

明るくて広い場所が良いですよね」

「そうだな」


 凛先輩の言葉に頭を掻きながら笑っている親父。

 ったく、この二人は何、謀をしてくれてるんやら……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る