第24話 仕掛け ①
今年度のミスコンの立候補締め切りが、一週間後に迫った日の午後。
徳井と岡田生徒会長は秋の庭のベンチの前にいた。
「私をこんな所に呼び出して何の用ですか? えーと、一年の誰だったかな……?」
岡田生徒会長は、さも煩わしそうに聞いてきた。
「徳井です」
「ああ、徳井君か。まあ、君の名前なんてどうでも良いんですが、それよりも話というのは何です? 私もいろいろと忙しい身なので手短かに頼みますよ」
「分かりました」
徳井はそんな岡田生徒会長の言葉を、気に掛ける様子も無く淡々と答えた。
徳井は通話状態でスマホを持っているので、徳井と岡田生徒会長の会話は教室にいる俺と昌のスマホから聞こえてくる。
「相変わらず嫌な言い回しをするな」
「まったくだな。しっかし、徳井は微動だにしないな」
再び徳井の声がスマホから聞こえてくる。
「一週間後のミスコンに、推薦したい女子生徒がいるのですが」
そう言って徳井は岡田生徒会長に一枚の写真を手渡す。岡田生徒会長は写真を手に取りしばらく見てから口を開いた。
「この写真は修正は入っていないんですね」
「もちろんです」
「わかりました。後で連絡します」
岡田生徒会長は制服の胸のポケットに写真を入れて、足早に校舎へ戻って行った。徳井はその後ろ姿が消えるのを待って、ふっとため息をひとつついた。
「お疲れさま!」
ポケットに入れてあったスマホから声が聞こえてくる。徳井はポケットから取り出して応じた。
「昌くん、うまく演れてましたか?」
「上出来だよ」
「うん! 徳井! 良かったよ」
昌と俺はスマホ越しに徳井を労った。
「うわぁ~、羽多野くんに褒められるなんて! 提案した甲斐があったなあ」
徳井は無邪気に向こうで喜んでいるのだが、こちらにいる俺は苦笑いで、昌は大爆笑している。
ちなみに、これは昌が考えた岡田生徒会長の不正を暴く作戦の一環で、まずは昨年の凛先輩の役を担う女子生徒を自分たちが岡田生徒会長の下に送り込む、そして賭けが成立して岡田生徒会長の裏工作が終了した時点で、ミスコン出場を取りやめることを武器にして不正を問いただすというものだ。
しかし、この作戦を実行するにあたり、俺たちはいちばん最初でつまづいた。
「で、誰を岡田生徒会長の下に送り込むかだが……」
昌の言葉がそこで止まった。
凛先輩は前回優勝者として、今回のミスコンは強制出場っていうか、今回は本命の立場なので、この作戦の仕掛け役にはなれない。
ということは、今日子と真美ちゃんのどちらかということになる。
当然、岡田生徒会長が採用しようと思わせる為には、本命である凛先輩に匹敵するくらいの容姿を持っている必要がある。
「私は真美ちゃんが良いと思うわ! だって、こんなに可愛いんですもの!」
凛先輩はうれしそうな顔で、真美ちゃんをギュッと抱きしめながら言った。
「ご、ごめんなさい。わたしには無理です」
すごく迷惑そうな顔で、真美ちゃんが断る。
その答えを聞いたみんなの視線は、自然と今日子へと向けられる。
「え、え! わ、私? 無理、無理、無理、無理、無理に決まってるでしょう!」
今日子も首を横にぶんぶん振って断る。
「そうか……。困ったな」
昌は額に手を当て考えこんだ。
そんな昌に、徳井からある提案がなされた。
「それなら僕に任せて貰えませんか?」
「徳井? 何か良いアイデアがあるのか?」
昌の質問に爽やかな笑顔で答え、話を続ける。
「はい。実は僕、学校には内緒でファッション雑誌のモデルのアルバイトしてたりするんです」
「モデル!?」
茶目っ気たっぷりに、舌を出して片目をつむっている徳井を見ると、確かにモデルをやっていても不思議じゃない気がする。
「それで、僕は島田さんにミスコンに出て貰うのが良いと思います」
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