第22話 ミスコンのカラクリ ③
「ミスコンを賭けの対象にして、金銭の授受を行なっている」
リビングには、緊迫した雰囲気と物音一つしない異様な静けさが、息を詰まらせるような空間を作り出していた。
そんな中、昌は話を続ける。
「つまり、岡田先輩はミスコン出場者の女子生徒にオッズをつけ、客である生徒にお金を賭けさせていたってことになる」
「でも、それってみんなが本命の人に賭けて、その人がミスコンで優勝したら岡田先輩は大損するんじゃないの」
「普通にやっていればそうなんだけどね」
みんなが不思議そうな顔をしていると、昌はテーブルの上に紙とボールペンを出して、二重丸、丸、三角の印を付ける。
「昨年のミスコンを例に説明すると」
二重丸の印の横にナナセとカタカナで書き、
「これが本命だった当時三年の七瀬さん」
次に、丸の印の横にニジノと書いて、
「そして対抗だった同じく三年の虹野さん」
最後に三角の印の横にフジノと書いた。
「それからニ年の藤野さん」
昌は、その三人の名前が記入された紙を真ん中に置いて、俺たちに向き直った。
「この三人だけが当初出場する予定だったんだよね。白石先輩?」
「そ、……そうね」
「そこでだ、徹は誰に投票する?」
「うーん、そうだなぁ。ここはシンプルに本命の七瀬さんで」
「七瀬さんに一票」
そう言いながら、昌は二重丸のナナセと書いてあるところに、一と書いた。
「徳井は誰に投票する?」
「僕は対抗の虹野さんに一票」
丸の印の横にニジノと書いてあるところに一と書く。
「それじゃあ、今日子ちゃんと真美ちゃんは誰に投票する?」
昌に聞かれた今日子と真美ちゃんは、顔を見合わせて少し困った顔をしながら答えた。
「私はミスコンにあまり興味が無いからちょっとパスかな」
「わたしも遠慮させていただきます」
「わかった。二人は棄権と云う事で……ここに白石先輩が出場者として加わる」
昌はそう言って、三角の印の下にバツ印をつけてその横にシライシと書く。
「これで昨年の出場者が出揃ったわけだが、徹、お前が賭けるとしたら誰に賭ける?」
「結果が分かっているから凛先輩と言いたいところだけど、この段階だとどう見ても本命の七瀬さんか対抗の虹野さんが優勝するでしょう。……っていうか、この三人がいる中でどうして凛先輩が出場する事になったのかが分からないよ」
「じゃあ、本人に聞いてみようか」
みんなの視線が凛先輩に集まる。
凛先輩は少し苦々しい顔をしながら、口を開いた。
「生徒会から打診があったのよ」
「打診?」
「そう。年に一度のお祭りみたいなものだから、一年生からも一人出場してくれないかってね。それで一年生の中で話し合って私が出場する事になったの」
「うーん、何かうさんくさい話だな」
俺の声に反応して、昌がポンと一つ手を叩いた。
「その通り! うさんくさいんだよ。全ては岡田生徒会長のシナリオ通りに進んでいたんだ」
「ちょっと待ってよ。シナリオ通りって、本命と対抗に票が集まっているこの状態からどうやって逆転するんだ?」
俺はテーブルに置いてある前回のミスコンをシミュレーションした紙を見た。ここだから本命と対抗に一票ずつしか入ってないが、実際には投票された大部分の票が本命と対抗に入ったはずである。
「そうだな一見、本命か対抗で決まりに見えるだろう? でもここから面白いんだ」
昌は楽しそうにみんなの顔を見まわして話を続けた。
「現状は確かに本命と対抗の二人の争いになっているんだが、さっき俺が誰に投票するか聞いたよね」
「うん」
「徹と徳井は本命と対抗に、今日子ちゃんと真美ちゃんは棄権すると」
昌は確認を取るかのように俺に聞いてきた。
「間違い無いよ」
「それじゃあ、その棄権票が白石先輩に流れたらどうなると思う?」
そう言って、昌はいたずらっ子のようにニヤリと笑った。
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