第17話 そして、すべてが動き出す。 ③
独り言をつぶやきながら、冷えたコーラで心をクールダウンする。
しっかし、あの娘、強かったよな。俺もそろそろ格闘ゲーム引退かな…………。
そう思いながら、今しがた俺を倒したかわいい女の子の方に目をやると異変が起きていた。
その女の子が、タチの悪そうな三人組の男に囲まれていて、明らかにイヤそうな顔をしている。
放っておいても構わなかったんだけど、考えるより先に行動にでる(のちに昌に指摘された)性格が災いして、さっきまでゲームしていた機械に向かって歩き出していた。
「ったく、しょうがねーな」
頭を掻きながら、三人に囲まれている女の子の所に行って、つとめて明るく大きな声で言った。
「待った? コーラ買ってきたよ!」
俺は手に持ったコーラを、彼女に差し出した。
彼女は一瞬戸惑った様子を見せたが、すぐに俺の意図を理解したらしく、俺の差し出したコーラを受け取りうまく話を合わせてくれた。
「ありがとう。じゃあもう帰りましょう」
と言って席を立って、俺と一緒に歩き始めた。
あの三人組が声をかけてこないかとヒヤヒヤしたが、諦めたようで俺たちに絡んでくることはなかった。
「ありがとうございました。助かりました」
彼女は深々とおじぎをして、手にしているコーラを飲み始めた。
「えっ、そ、それ……」
「あーっ! ごめんなさいです! のどが渇いていたので、つい…………」
そう言って、彼女は今飲んだコーラを俺に返した。
「あー、でも、これだと間接キッスになっちゃいますね。えへっ」
えへっ…………じゃねぇよ。ってかその前に俺が飲んでるし…………。
そのあと少しゲームの話をして家に帰ったんだけど、その娘が長瀬真美ちゃんだと知るのは、それから1年後に、今日子が新しい友達が出来たと紹介してくれた日のことになる。
「あの時は本当に怖かったんですよ。すごく助かりました」
「全然大した事してないから。それよりも真美ちゃんゲームうまかったよね。俺、あのゲーム結構自信あったのに、一勝も出来なかったからなぁ」
「えへへっ、あのゲームに限らずゲーム全般好きなんですよ。あ、でも、ゲームだけじゃあないんですよ。パソコンとかの電子機器も好きですし、パソコンの組み立てくらいだったら自分で出来ますよ」
「へーっ、すごいな。今度お願いしようかな」
「はい!」
真美ちゃんは頬を赤らめながら、うれしそうに微笑んだ。
「あっ、パソコンと言えば、真美ちゃん、ブログやっているよね」
「えっ? え、えっと、あのぉ……」
目がおよぎ、額からうっすら汗が滲んで、明らかに動揺しているのがわかる。
「…………見たんですかぁ?」
「えーっと、ウチにいる同居人が突拍子もない格好をしていたので、どうしたのかと問いただすと、何か大ファンなブログに書いてあった事を実践したらしく、それが真美ちゃんのブログだったって訳で」
「あのぉ、それってどんな格好だったんですかぁ…………?」
「ちょ、ちょっと、言葉にするのも恥ずかしいんだけど……裸エプロ」
俺が最後のンを言う前に、真美ちゃんが言葉を被せてきた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。あれは漫画とかアニメとかでこういうのありますよね? 的なネタ話で、まさか実践する人がいただなんて……」
目をギュッとつむって、しきりに頭を下げて謝っている。
「いや、真美ちゃんが謝ることは無いんだよ。そんな格好をしようと思ったあいつがおかしいんだから」
「本当にごめんなさい」
真美ちゃんは申し訳なさそうに俺の顔を見ていたのだが、徐々に、何か様子がおかしくなっている。
「そ、それで……見たんですか……?」
「へっ? 何を?」
「白石先輩の裸です!」
何故か、真っ赤な顔をして怒っている口調で、俺に問いただしてきた。
「えっ、あのー、ほら、エプロンしてたから、何にも見えなかったよ。うん」
俺、何、慌ててんの。本当に何にも見てないはず……小ぶりなかわいいおしり以外は……って見てるじゃないか俺。
「本当ですか?」
真美ちゃんが大きな目をいっそう見開いて、俺の方に顔を近づけてくる。
「う、うぅぅ…………」
何で今日はそんなに追及してくるんだよ、真美ちゃん。
「じ、実は…………」
「実はぁ?」
俺が凛先輩のおしりを見たことを、白状しようとした時にナイスタイミングでスマホが鳴った。
「実はスマホが鳴っているんだ。あはは…………」
ものすごく不満そうな顔をしている真美ちゃんを、ほおっておいて俺は電話に出た。
「もしもし」
『徹! 今何処だ!』
昌のただ事ならぬ勢いの口調である。
「昌か、どうしたんだ?」
『まずいことになった! 今日子ちゃんが徳井に呼び出されている!』
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