第18話 そして、すべてが動き出す。 ④
しまった! うかつだった!
放課後の教室に、今日子と徳井の姿が見えなかった時点で、こうなっている可能性を考えておくべきだった。
「昌! 二人はどこにいる?」
『高等部と中等部の間にある園庭だ!』
「わかった! 今すぐに行く!」
俺と昌のスマホでのやり取りを聞いていた真美ちゃんが心配そうに聞いてくる。
「どうかしたんですか?」
「うん! 緊急事態だ! 今日子が徳井に呼び出されたらしい。急いで学校に戻らないと!」
「わかりましたぁ。私も行きます!」
俺と真美ちゃんは、今歩いて来た道を引き返す為に全力で走りだした。
頼む! 間に合ってくれ!
俺は祈るような気持ちで走った。
私立神楽坂総合学園は、膨大な敷地内に幼稚園、小等部、中等部、高等部、大学が建てられている。
その建物同士を仕切る形で、遊歩道と園庭が設けられていて、幼稚園と小等部の間は春の庭、小等部と中等部の間は夏の庭、中等部と高等部の間は秋の庭、高等部と大学の間は冬の庭という名前がつけられて、季節ごとの花が各々の庭で咲いて学園を彩っている。
「徹! こっちだ!」
秋の園庭に向かって全力疾走していた俺を、昌が呼び止めた。
昌は園庭から少し離れた木の影に隠れるようにしている。
「今日子と徳井は何処だ?」
「静かにしろ、徹、声が大きいぞ」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」
「いいから、こっちに来い」
俺は昌に引かれていっしょに木の影に隠れた。
「何か様子がおかしいんだ。あの二人。徹、見てみろよ」
昌が指差した園庭にある木製のベンチに、今日子と徳井が座っている。確かにおかしいといえばおかしい気もする。二人は並んで座っているのだが、告白すると言うような甘い感じでは無く、徳井はうつむき加減で深刻な表情をしているし、今日子はどちらかと言うと慈愛に満ちた優しい笑顔で徳井を見ているという感じである。
「俺がここに来てからずっとあんな感じなんだ」
「だからと言ってそのままにして置けないだろ!」
「まあ、そうなんだが……」
なんとも煮え切らない返事を聞いたところで、俺といっしょに引き返してきた真美ちゃんが到着した。
「やっと追いつきました。今日子ちゃんの様子はどうですか?」
「見てのとおりさ。なんか微妙な雰囲気なんだ」
真美ちゃんも俺たちと同じ木の影に隠れて、今日子と徳井の方を見た。
「そうですね、告白をしているって感じでは無いかもです…………あっ! でも今、徳井くんが今日子ちゃんの手を握ってます!」
「なっ!」
俺は思わず飛び出していた。どんな感情が俺を動かしたのかは自分でもわからないが、とりあえず今は今日子を助けることだけを考えていた。
「ちょっと待った!」
俺は今日子と徳井の繋がれた手を振りほどき、二人の間に割って入った。
「えっ! 何? どうしたの? 徹!」
今日子は急に飛び込んできた俺に驚いて、目をまんまるに見開いていた。
「今日子! おまえは知らないだろうけどな! こいつは女の子を取っ替え引っ替えして沢山の子を泣かせているんだ。俺はおまえにはいつも笑顔でいて欲しいと思う。だからこいつだけはダメだ!!」
俺は今日子にそう言い振り返って徳井を睨みつけた。
徳井はそんな俺の目を見て、悲しげな困った様な表情をしている。
「ちょっ、ちょっと待ってよ! 徹!」
俺と徳井の様子を、俺の背中から見ていた今日子が口を開いた。
「徹が私のことを、そう言うふうに思ってくれているのはものすごく嬉しいんだけど、何か勘違いをしているわ!」
「勘違い?」
「そう。徳井君が好きなのは私では無くてあなたよ。徹」
「はぁ~~~~~~っ!?」
な、何? 今日子は何を言っているんだ?
徳井が好きなのは今日子じゃなくて俺だって!?
いやいや、意味がわからないし!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます