第15話 そして、すべてが動き出す。 ①

「今日も元気だ! 昼メシが美味い! ……ってか?」

「昼メシじゃないだろ」


 教室で弁当を広げて、昌が食べ始めている。いたって普通の光景……ただし、今の時間が正午だったらの話である。

 今の時間は午前十時、二限目と三限目の休み時間である。


「今、弁当を食べてしまって、お昼はどうするんだよ」

「購買でパンでも買って食べるさ」


 昌は大ぶりな唐揚げを口に頬張って、もごもごさせながら答えた。


「ったく、食べながらでいいから話を聞いてくれるか?」

「もぐっ(おう)」

「昌は岡田生徒会長のことをどう思う?」

「そうだな、頭が良くて見た目もかっこいい、そのうえ生徒会長だ、学園内でカリスマ的人気があるって感じかな。…………と、まあここまでは学園の生徒が、岡田生徒会長に抱いているイメージだな」


「じゃあ、昌が岡田生徒会長に抱いているイメージは?」

「俺の個人的なイメージとしては、悪知恵が働いて、姑息な男というのしかないけどな!」


 昌にしては珍しい強い口調で言って、ご飯を口にかきこんだ。


「岡田生徒会長と何かあったの?」

「まあな、つまらない事だけど、少し前に岡田生徒会長から生徒会室にお呼びがかかったんだ」




 生徒会室


「失礼します」


 俺が中に入ると、教室正面中央のデスクに着いている岡田生徒会長が迎えてくれた。


「待っていましたよ。木崎君」

「何か御用すか? 生徒会長?」

「まあ、とりあえずそこに腰掛けて下さい」


 岡田生徒会長の着いているデスクの前に置かれている椅子を指して言うので、俺は言葉に従い、その椅子に座り岡田生徒会長と対峙した。


「さっそくで悪いのですが、木崎君、生徒会役員になるつもりはないですか?」

「えっ? なんで俺なんすか?」

「君の情報収集能力はすごいらしいじゃないですか。上級生の間でも話題になっていますよ。私は君の能力を非常に高く評価しているのです。ぜひともその能力を生徒会活動に役立てて欲しいものだと思っています」


「えっと、評価してもらえるのはありがたいんすけど、俺が生徒会役員になったときの仕事の内容を聞かないことには答えは出せませんね」

「それは当然の言い分ですね。そうですね、基本的には情報収集を行なっていただく。当然の事ですが、生徒会室のパソコンは自由に使ってもらってかまわないし、学園のホストコンピュータへのアクセス権も渡すことができます。君にとっても美味しい話だと思うのですがどうでしょう?」


「確かに学園のホストコンピューターのアクセス権は美味しい話すね。でも、美味しい話ほど何とやらって言いますからね……で、情報収集とは具体的に何を集めるんすか?」

「学園生徒の個人情報。その中でも負の情報、つまり個人の弱点の情報ということですね」

「そんな情報を集めてどうするんすか?」

「個人を管理することに使用するつもりです」


「それは言い直せば、相手の弱みを握って脅迫して、自分の思い通りに動かすっていう事すか?」

「まあ、当たらずとも遠からずってところですね」

「それなら、俺はパスすね。俺の情報で誰かが苦しむなんてのは俺のポリシーに反するから……とりあえずこの話は無かったって事でよろしくっす」


 そう言って俺は生徒会室を出てきたんだ。




 弁当を食べ終えた昌は、片付けながら話しを続けた。


「徹、考えてみてくれ。俺が探り出した個人情報によって生徒会、いや、岡田生徒会長の言うことを聞かない生徒をコントロールするなんて……俺のことを信頼して情報をくれている人たちに申し訳が立たないよ」

「確かに」

「それで、さっき徹が俺に話しがあるっていうのは岡田生徒会長に関することか?」

「そうなんだ。実は昨日……」


 俺は昨日、生徒会室であった事と凛先輩とその事について話した事を言った。


「岡田生徒会長の不正か」

「昌、何か知っているか?」


 難しそうな顔をして、顎に手を当てながら答えた。


「ああ、白石先輩の言っている噂話があるっていう事は知っている。問題なのはそれがただの噂話なのか真実なのかだけど…………実はあまり興味が無かったから、検証しようとしたことも無かったなあ。とりあえず今日中にいろいろ当たってみるよ」

「よろしく頼む」


 この会話以降、昌は休み時間ごとに忙しそうに何処かに行っては、授業が始まる時間ぎりぎりに急いで戻るっていうのが続いた。

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