第14話 異常な日常かも……。 ④

 俺は凛先輩のマグカップを持って、ココアを作りにキッチンの方に移った。


「さっきの話の続きだけど、メッセージを送ってきた人って、俺だってことを知っていて送ったと思う?」

「うーん、微妙なところなのよね」

「どういうこと?」


 淹れたてのココアを凛先輩に手渡して、俺は向かいの席に座った。凛先輩は両手でマグカップを持ち、カップのふちに桜色のこじんまりして形の整った唇をつけて、こくりと一口ココアを飲んで満面げな笑みを浮かべている。


「私は、徹くんに生徒会室でパソコンの打ち込み作業を手伝ってもらうことを、誰にも話して無いの。だから徹くんに意図してメッセージを送ったとかどうかは…………」

「それじゃあ、あのメッセージは生徒会役員の誰かに読んでもらいたかったのを、偶然、俺が読んでしまったって事になるのかな?」

「んー、そこが微妙だって思う由縁なのよね。生徒会役員の誰かがメッセージを読んだとしても、現状それに応えれる人は存在しないと思うし、最悪そのメッセージ自体が岡田生徒会長の手に渡った場合、送り主のあぶり出しが始まるかもしれない。そんなリスクのある事をメッセージを送った人物がするとは思えない」


「そう考えると、生徒会室のパソコンにアクセスできて、俺があの時間にあの場所にいてパソコンを見ている事を知っている人物、って考えるのが一番可能性が高いって事になるのかな?」

「そうなるわね」

「いったい誰なんだろう?」


 俺はマグカップに残っているコーヒーを一気に飲み干した。


「凛先輩、もう一つの疑問なんだけど、岡田生徒会長は本当に不正をしているの?」

「うーん、それも曖昧なのよね。私も噂話でしか聞いたことが無いから真実かどうかは……」

「どんな噂なの?」

「去年のミスコンで、岡田生徒会長が何か不正な事をやっていたっていう噂なんだけど、実際に何をやっていたかはわからないわ」


「ミスコンか……そういえば、今年のミスコンももうすぐだよね」

「そうね。はぁ~、ミスコンか……イヤな思い出しかないわね」

「どうして? 優勝したんじゃないの?」

「それなのよね……ね、徹くん、私ってミスコンで優勝できる顔だちだと思う?」


 凛先輩は俺に顔を近づけてくる。

 真っ白な肌に猫のように少しつり上がった目、まん丸で大きい瞳、絶妙な曲線を描く鼻すじ、初々しい苺のような小さな唇、どこからどう見たって美人だと思う。

 俺は近づいてきた顔に照れながら言った。


「学園のみんなが綺麗だって言っているじゃない」

「でも、それって私がミスコンで優勝したからでしょう。……胸なんて大きく無いし…………」


 凛先輩は自分の胸を見てつぶやく。

 わーっ! やっぱり気にしていたんだ!


「え、えーと、大丈夫だと思うよ。これから大きくなるよ」


 なにが大丈夫なのか自分でもわからないけど、とりあえずフォローしてみた。


「そうだったらいいのだけど……」

「で、話しを戻して岡田先輩の不正の件だけど、俺の親友の昌に聞いてみようと思うんだ。彼なら何か情報を持っているかもしれないしね」

「昌くんって、木崎昌くんのこと?」


 俺は凛先輩の口から自分の親友のフルネームが出たことに驚いた。


「えっ! 凛先輩、昌のこと知っているの?」

「そうね。でも、知っているって言っても岡田生徒会長が要注意人物として、チェックリストに名前が入っていたくらいで詳しくは知らないわ」

「要注意人物のチェックリストって?」

「岡田生徒会長が言うには、生徒会にとって不利益をもたらす可能性がある人物をリストアップしたものだそうよ」


 へーっ、あの昌がね……生徒会に不利益をね……

 俺の不思議で納得いかなそうな顔を見て凛先輩は続けた。


「備考欄に情報収集能力と、情報操作能力って書いてあったわよ」

「あぁ、それなら納得出来るかな。昌の情報収集能力はすごいから」

「そんなにすごいの?」

「うん。情報って色々なところから入ってくるじゃない? 学園の事だとウワサとか、ラインとか、サイトとか、その中には真実もあれば嘘もある。昌はその情報を検証して真実、嘘、グレー、というふうに分けているんだよ」


「情報操作能力っていうのは?」

「それはちょっとわからないけれど、明日、昌に聞いてみるよ。まぁとりあえず今日は色々あって疲れたからお風呂に入って寝ることにするよ」

「わかったわ」

「しっかし、昌のやつすごいなぁ、岡田生徒会長に一目置かれるなんて」


 俺はそうつぶやきながら、リビングから風呂場に向かった。

 その後ろ姿を見ていた凛先輩が発した言葉は俺の耳に届かなかった。


「徹くん、あなたも要注意人物リストの一人なのよ」


「備考欄は…………」

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