第9話 事件は降りかかってくるもの ②
「えっと、俺はここで何をすれば……」
「あ、そ、そうね。とりあえず、ここに座って」
凛先輩は気を取り直し笑顔で、俺をUの字に配列されている机の所にある席に座らせた。
目の前にはワードの画面が開かれているノートパソコンが置いてある。そこに凛先輩が30センチの厚さはあるであろうファイルをノートパソコンの横に置いた。
「えーと凛先輩、これはいったい何でしょうか?」
だいたいの想像はついているのだが、あえて聞いてみた。
「当然、このファイルをパソコンに打ち込む作業よ」
「帰らせていただきます!」
「ちょっと待ちなさい」
凛先輩は俺の肩を上から押さえて、椅子から立ち上がれ無いようにして小声で言った。
「私が姉であることをみんなに言っていいのかしら?」
天使の微笑みをたたえて、悪魔の一言を俺に囁いた。
「わ、分かったよ! やればいいんだろ!」
俺は仕方なく分厚いファイルを開きノートパソコンに向かう。
ファイルに書いてある文字をパソコンに落としていくという単純作業だ。初めはたどたどしくキーボードを叩いていたが、慣れてくると少しづつ速くなってくる。そうなると少し周りの様子を伺える余裕も出てきて辺りを見回してみるのだが、これが全く面白くもない。
生徒会室は役員どうしの会話も無く、静寂の中パソコンのキーを叩く音だけが辺りに響いているだけなのだ。
俺が再び集中してパソコンの入力作業を始めてしばらくした時、ノートパソコンの画面に異変が生じた。
ん? 何だ?
生徒会議事録の打ち込みを終えた所だったのだが、その中の幾つかの文字が点滅しているように見えるのだ。
俺は点滅している文字を目で追ってみる。
生
徒
会
長
岡
田
の
不
正
を
暴
け
続けて読んでみると『生徒会長岡田の不正を暴け』って。
「何だこれ!」
静寂の中、俺の呟いた一言が生徒会室に響きわたり、 生徒会室のみんなの視線が俺に集まる。
「どうかしたのですか? 羽多野君?」
岡田生徒会長がにこやかな笑顔を浮かべて聞いてきた。
俺はふたたびパソコンの画面を見てみると、点滅していた文字は無く普通の入力画面に戻っていた。
さっきのは何だったんだ?
しかし、内容が内容だけに迂闊に話す訳にはいかないよな。俺はそう思いこの場はごまかす事にした。
「すいません。少し目が疲れてきたみたいです」
「慣れない仕事をさせたせいかな。白石くん、今日のところはこれくらいにしてあげたらどうですか?」
「そうですね」
岡田生徒会長の言葉を受けて、凛先輩は俺に向き直り
「徹くん、今日はこれで帰っていいわ。明日もまたお願いね」
笑顔を見せたのだが、この言葉の最初の『徹くん』っていう部分が、生徒会室にいた生徒たちに衝撃を与えるには十分な事だったらしく、静かな生徒会室がたちまちざわめきにつつまれた。 中でも岡田生徒会長の顔は口はにこやかなのだが、目に強烈な怒りが感じられた。
「すいません。お先に失礼します」
いたたまれなくなった俺は、挨拶をして速攻で生徒会室を出た。
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